2025年1月18日・19日にかけて、大学入試共通テストが実施された。センター試験から共通テストへと変更されて5回目の今年。2022年度に学習指導要領が改訂されてから初の新課程での共通テストの実施となった。その中身はどのようなものだったのだろうか。 今回、東大生10数名が各科目を解き、例年との比較を行った。今回は、19日に実施された「数学II、数学B、数学C」に関して、その結果を共有したい。新課程でどう変わった? まず初めに、新課程の「数学II、数学B、数学C」について、従来のテストからの変更点をおさらいする。今回は特に変更点が多いため、一部抜粋してまとめる。 2024年までの共通テスト「数学II、数学B、数学C」では大問の数は全部で5つであり、後半の大問3~大問5の中から2つの大問を選択して回答する方式であった。それに対し、今年は大問の数が7つに増え、後半の大問4~大問7の中から3つの大問を選択する形式となった。制限時間も従来よりも10分延長され70分となったが、大問の数を考えると、分量が大幅に増えたように感じられる。しかし、実際には大問1、大問2は従来の大問1を内容を変えずに分割したものであり、内容の総量で考えれば大きな変化はなかったのではないか。問題の難易度的には、やや難しい問題もあったがその問題には丁寧な誘導が用意されており、試作問題と比較して分量が少なかったため、数学が得意な受験生にとっては得点しやすい構成となっていたと感じた。 新課程の学習指導要領で新しく加わった「平面上の曲線と複素数平面」の単元では、試作問題で出題されていた「平面上の曲線(2次曲線)」が除外され、「複素数平面」のみが出題された。また、「統計的な推測」では仮説検定が出題され、試作問題には含まれていなかった「片側検定」が扱われた。仮説検定に関しては、「数学I、数学A」、そして「数学II、数学B、数学C」の両方で出題される結果となった。新課程の学習内容を強く意識した問題設計であったことが窺える。 ここからは、実際に東大生が解いてみた上で特に面白いと思った問題について、大問ごとに抜粋して紹介していく。東大生が「面白い」と思った問題 第1問は三角関数に関する方程式の問題であった。前半部分では、θについての方程式を考察する問題で、「sinα=sinβ」となるα、βの関係性について論じた。単位円を使って三角関数を解く考え方は多くの受験生にとって馴染み深いものであろうが、今回はθの範囲によってαとβの範囲が変わってくる点で、解き方に工夫が必要である。このような形の方程式を解いた経験があるかどうかが、点数を大きく左右したであろう。第1問の最後の問題では、同じ解き方で「cosα=cosβ」について検討する。ここまでの問題でやってきたことをいかに応用できるかがカギとなる。 第2問は、「1日ごとに一定の倍率で増える水草」が水面を覆う面積についての計算を、常用対数表を用いて行う問題であった。水草を水面に浮かべる、という日常生活を題材にしたテーマだが、式を立てて値を常用対数表から求める、というシンプルな動作を繰り返していけば解き切れる内容であり、普段から表を活用して問題を解く練習をしていたかどうかが得点のカギになる。 第3問は、いくつかの条件を満たす関数に関する問題である。2つの関数の導関数が等しいことから、これら2つの関数の差が定数であることを用いて問題を解いていく、という新鮮な設定であった。問題の条件を把握できれば計算量はそこまで多くないが、極大値、極小値などの値を文章から読み取ることが難しく、時間がかかる問題であった。 また、後半では関数や極大値を定積分を用いて表す問題が見られた。問題の選択肢にあった「面積の-1倍」「極大値の-1倍」という表記はこれまでの共通テストでもなかなかない記述であり、困惑した受験生も多かったことが予想される。極大値が0であることから極小値がマイナスであることが推測できることや、面積は必ずプラスの値になることなど、数値を求める計算以外での柔軟な考え方が求められる大問となった。 第4問は与えられた図形の内部に含まれる格子点の個数を求める問題であった。小問ごとに図形が異なるものの、方針は同じであり、それぞれの図形に応じた計算を行えば問題に回答することは容易だったのではないか。新課程の共通テストでは、このような一見「数列」の問題に見えないような「数列」の公式を用いる問題をいかに素早く条件を理解して解き進めることができるかがカギとなる。最後の問題は「恒等式」の考え方も用いる問題設定となっており、幅広い単元を包括的に理解することが求められる良問だったと言えるだろう。 第5問は(1)で正規分布および二項分布、そして(2)では母平均の信頼区間に関する問題、(3)では仮説検定についての問題が出題された。内容として非常にレベルの高い問題は存在しなかったが、どの問題も資料を丁寧に分析する力が求められており、制限時間を見ながら解き進める必要があった。今後の受験生は、対策としてこのような問題を解きながら教科書で習った基礎事項をおさらいすることが効果的であろう。 第6問は球面上の3点が正三角形をなす条件を座標計算を用いて求める問題であった。空間ベクトルには苦手意識を持つ受験生が多いと思うが、丁寧な誘導があり、それに従うことで計算を進める問題であるため、粘り強く思考すれば高得点を狙える大問であっただろう。最後に「a」に関する条件を求める問題があるが、そこでは不等号の向きを確認して問題を解くことが重要となる。最後の最後で細かな計算ミスをしないように意識しよう。 最後の第7問は、数学Cの複素数平面からの出題であった。「純虚数」となる条件についてがメインテーマであったため、偏角について座標を用いてイメージをつけながら柔軟に思考する能力が求められた。二次試験対策によって複素数平面に慣れている理系の受験生にとっては得点源となる問題であった一方で、苦手意識のある受験生にはかなり厳しい問題だったのではないか。この大問は選択問題の一つであるため、選択しないのも1つの手段であったと推察される。 全体的には、ひとつひとつの大問の問題数が少ないため、いかにテンポよく次の大問に進められるかがカギとなる試験であった。高校生がこの試験を乗り越えるためには、それぞれの単元で必要な公式を網羅するだけでなく、その使い方を自分の中で確立し、問題に対してどのような解法が有効なのかを瞬時に決断する能力が重要であろう。