元TBSアナウンサーのアンヌ遙香がニッチな眼差しで映画と女の生き様をああだこうだ考え、“今思うこと”を綴る連載です。ほんのりマニアックな視点と語りをどうぞお楽しみに!
【アンヌ遙香、「映画と女」を語る #13】
今だからこそよい?!笑ゥせぇるすまん
最近配信で『笑ゥせぇるすまん』をよく観ています。懐かしいと感じる方、まったく知らないという方、様々でしょう。7月18日(金)から実写版ドラマがPrime Videoで独占配信されるとあって、再び注目が集まること間違いなしです。
私が観ているものは、80年代から90年代にかけてTBSのテレビ番組「ギミア・ぶれいく」内で放映されていたアニメです。藤子不二雄A先生が漫画雑誌「週刊漫画サンデー」に連載されていたものが少しタイトルを変えてアニメ化されたわけですが、大平透の独特の声もあいまり、喪黒福造は全国的な人気者になりました。一種の社会現象だったといってもよいでしょう。
この作品はあきらかに子ども向けではなかったはずですが、幼少期、うちの母親は笑ゥせぇるすまんを「ちょっと怖い、怪奇ものアニメ」だと思い込んでいたらしいのです。もちろんブラックユーモアに満ちた傑作であることは確かなのですが、時折非常にセンシティブな、場合によっては性的ともいえる内容や、ひとの生き死にを扱うこともありました。
刺激強すぎ?!ドギマギしながら観てしまった、、、
ある日、『笑ゥせぇるすまん』のスペシャルが放送されていたのですが、なにも知らない母親は「怪奇もの」好きの幼い私に「やってるよ!」と声をかけ、小学生になるかならないかぐらいの私は興味津々で観はじめてしまったのでした。その時の内容が強烈すぎたので、今でもよく覚えています。
日常に不満を抱いていたサラリーマンが、ある日女子高生の万引きの場面をデパートで目撃します。そして、警察につきださない代わりに俺の言うことを聞けとその女子高生を脅し、彼女をいかがわしい場所に連れ込むのです。女子高生は間一髪のところで難を逃れますが、物静かな女の子に見えた彼女は実はスケバンのリーダー。仲間を引き連れてそのサラリーマンの前に再び現れ、逆に痛めつける……という内容でした。
子ども心に、これは私の年齢では見てはいけないものなのではないだろうか、と感じつつも、普段からテレビの視聴時間には厳しい我が家だったので、これ幸いと黙って視聴し続けた記憶があります。気まずさと、ドギマギ感と、あの一目見たら忘れられない喪黒服造の目、口。 幼少期の私に、強烈なインパクトを残したのでした。
癖になる!とまらない!笑ゥせぇるすまんの魔力
最近インターネットにて配信されているのをたまたま発見。スペシャル版などを抜かせば一本10分ほどの短さという気軽さもあり、何気なく見始めたわけでしたが。癖になる。とまらない。次から次へと見たくなる魔力。
「この世は老いも若きも男も女もココロの寂しい人ばかり。そんなみなさんのココロのスキマをお埋めいたします。いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたらそれがなによりも報酬でございます。さて、今日のお客様は…」から毎度始まりますが、80年末から90年代初頭にかけての、日本の雰囲気、ビル群の空気感までもが伝わってくるような暗さのある作画。
1985年生まれの私は、幼少期のあのころの日本の風景をありありと思い出すのです。バブル崩壊後に至っても、まだまだ、仕事命のモーレツサラリーマンが多く生息していた時代。毎回違う登場人物が現れ、小さな不満をきっかけに喪黒と出会い、どんどんおかしな深みにはまっていく、、、というのが毎度のパターン。やはりサラリーマンが登場人物として多い印象です。
帰りたくない、窓際族が妬ましい、、、昭和平成のサラリーマンのあの悲哀。
帰宅しても自宅に居場所がなく、無駄に残業したり喫茶店のコーヒー一杯でいつまでもねばる「帰りたくない」サラリーマン。会社の重役になったもののあまりに忙殺される日々に、隣のビルの窓際族を妬ましく感じてしまう優秀なサラリーマン。我慢できないわけではないのだけど、日常的にちくちくとココロに刺さり続けるストレス。そのストレスが気になり始めたタイミングで喪黒福造が登場します。
よくあるパターンなのが、日常に不満を抱き、あの人と生き方を交換できたら、もう一度あの時点から人生をやり直せたら……とモヤモヤしてしまうというパターン。
【こちらも読まれています】▶▶▶「私の人生、こんなはずじゃなかった」元TBSアナが「日常になんとなく不満を感じた人に観てほしい」と語る意外な作品とは