夏休みの宿題の定番の1つでもある「読書感想文」。夏休みに取り組むために、早めに課題図書に目を通したいと考えるご家庭もあるのではないだろうか。全国学校図書館協議会と毎日新聞社が主催する「青少年読書感想文全国コンクール」は、2025年で71回目の開催を迎える。作品は在籍校を通して提出することとなっており、地方審査を経て中央審査会へと進み、段階的に審査が行われるため、締切りは都道府県により異なる。 青少年読書感想文全国コンクールのWebサイトでは、第71回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書がすでに発表されている。そこで2025年度の課題図書を、小学校低学年、小学校中学年、小学校高学年、中学校、高校の区分ごとに紹介する。なお選定理由は、第71回青少年読書感想文全国コンクール「課題図書」選定委員会の報告をもとにしている。 今年の課題図書も、さまざまなテーマを取り上げたバリエーションに富んだラインアップとなっている。夏休みに先駆けて課題図書をチェックし、勉強に、遊びに充実した夏休みの計画の第一歩としてみてはいかがだろう。<目次>・小学校低学年(1、2年生)・小学校中学年(3、4年生)・小学校高学年(5、6年生)・中学校・高等学校小学校低学年(1・2年生)の部ライオンのくにのネズミ【選定理由】 柔らかな色使いだがインパクトのある絵と、現代のグローバル社会を生きる子供たちにふさわしい内容で、低学年の児童が友達との関わりを考えることができる1冊。【書籍情報】出版社:中央公論新社作:さかとく み雪価格:1,760円(税込)あらすじ:ライオンの学校に転校したネズミのぼく。体の大きさも、言葉も違うライオンと仲良くなんてできっこない!そう思っていたけど…。ネズミの勇気が、世界を変える!「書店員が選ぶ絵本新人賞2024」大賞受賞作。ぼくのねこポー【選定理由】 主人公の心の葛藤が良く描かれており、猫を飼っていなくても自分ごとのように想像して読める文章が高く評価された。主人公の選択が、生き方として読者に光を与えてくれると期待が持てる点も選定理由。【書籍情報】出版社:PHP研究所作:岩瀬成子絵:松成真理子価格:1,430円(税込)あらすじ:道でひろったねこを、ぼくの家で飼うことにした。だけど、転校生の森くんが、飼っていたねこがいなくなったと話していて…。自分の気持ちと向きあい、大切なことに気付いていくお話。ともだち【選定理由】 友達関係という、子供にとって身近なテーマで、自分に置き換えて読める。シンプルだが、登場人物の世界の広がるようすが伝わる絵で、読者がわくわくする。【書籍情報】出版社:ひさかたチャイルド作:リンダ・サラ絵:ベンジー・デイヴィス訳:しらいすみこ価格:1,760円(税込)あらすじ:ぼくとエトは大の仲良し!どんな日も「ふたりいっしょ」。ある日、1人の男の子が「仲間に入れてくれる?」と、やってきて…。友達との関わりの中で生まれる感情を丁寧に描いた物語。ワレワレはアマガエル【選定理由】 さまざまなアングルの写真は立体感があり、色鮮やかで飛び出してくるような迫力がある。ページのデザインも効果的で、内容も科学的。親子で楽しむことも期待できる。【書籍情報】出版社:アリス館文・写真:松橋利光価格:1,870円(税込)あらすじ:おどろきの生態や体のとくちょうを、アマガエル自身が愛きょうたっぷりに紹介。おたまじゃくしからカエルへの変身も、大迫力!おどろきの生態を楽しく学べる。小学校中学年(3・4年生)の部ふみきりペンギン【選定理由】 登場人物らが友情や相互理解を深めていき、「左利き」といった身近な例から「ふつうとは何か?」を考えさせる内容。やさしい文章で、自分ごととして思いを巡らせることができる。【書籍情報】出版社:あかね書房作・絵:おくはらゆめ価格:1,430円(税込)あらすじ:ペンギンの声を聞く子。白いヘビのうわさ話を確かめたい子。鏡でライオンに会う子。変わったフクロウを見る子。自分らしさってなんだろう?「自分らしさ」を認めていく、やさしい物語。バラクラバ・ボーイ【選定理由】 転校生を迎える、という身近な体験を描いており、意外な転校生へのクラスの驚きが笑顔になるまでの構成、学校生活の面白さ、文化の違い、世界で共通する友情などを知ることができる。【書籍情報】出版社:文研出版作:ジェニー・ロブソン訳:もりうちすみこ絵:黒須高嶺価格:1,540円(税込)あらすじ:バラクラバ帽をかぶった転入生のトミーがやってきた。なぜトミーは帽子をかぶってるの?あの帽子の下には何がかくされている?"みんなと違う"を受け入れたとき、予想もしなかった驚きと感動の結末が待っている、笑いと友情の青春物語。たった2°Cで…:地球の気温上昇がもたらす環境災害【選定理由】 読者にとって自分ごとになるよう、身近な話題から、地球環境の問題を取り上げている。タイトルや目を引く絵もインパクトがあり、児童が自ら考えることができるメッセージ性も評価された。【書籍情報】出版社:童心社文:キム・ファン絵:チョン・ジンギョン価格:1,980円(税込)あらすじ:気温が2°C上がると、地球でくらす生き物みんなの命があぶない!植物も動物も、あなたも、わたしも。もうこれ以上、地球の気温をあげないために、わたしたちにできることを考える1冊。ねえねえ、なに見てる?【選定理由】 11人の登場人物によって、同じ場面がどう見えているかが視覚的に理解できる。中学年に伝わりやすい文章と絵で、「色覚異常」から「見え方」をとおして多様性について考えることができる。【書籍情報】出版社:河出書房新社絵・文:ビクター・ベルモント訳:金原瑞人価格:1,793円(税込)あらすじ:科学者のママ、ゲーム好きのパパ、音楽家のおじさん…同じ場にいても、見ているもの、その見え方はまったく違う。食卓を囲む家族の異なる世界を描く、多様性と共感について知るユニークな絵本。小学校高学年(5・6年生)の部ぼくの色、見つけた!【選定理由】 文章がやさしく情景が想像しやすい言葉で書かれ、高学年の児童が安心して読める。誰もが悩みを抱えていることを児童に考えさせ、登場人物らの成長から、前向きな気持ちになれる1冊。【書籍情報】出版社:講談社作:志津栄子絵:末山りん価格:1,650円(税込)あらすじ:ぼくは生まれつき、みんなと同じようには色が見えていないらしい。「色覚障がい」を隠して生活する信太朗。赤いトマトや焼けた肉が見分けられず、困ることもたくさん。しかし、自分の見え方に寄り添って考えてくれる担任の先生に出会い、「自分の世界の見え方の特別さ」に気付いていく。悩みを持つすべての子に読んでほしい、心が軽くなる物語。森に帰らなかったカラス【選定理由】 とかく嫌われ者のカラスだが、本作では主人公とカラスの関係を温かく見守った人々の情愛が描かれ、心あたたまる物語となっている。読書感想文を書くにあたっても読みを深められる作品。【書籍情報】出版社:徳間書店作:ジーン・ウィリス訳:山崎美紀価格:1,760円(税込)あらすじ:少年ミックが手当てをしたカラスのヒナは、ケガが治ったあとも家に戻ってくるように…。1950年代後半を舞台に、ロンドン動物園の元主任飼育員の少年時代の実話に基づいて描かれた、少年とカラスのふれあいの物語。マナティーがいた夏【選定理由】 多彩な登場人物から、読者が自身や家族、友達の姿と重ねて物語の中に入っていくことができる。マナティー保護の描写から、生き物との付きあい方を考え、未来への思いを広げられる。【書籍情報】出版社:ほるぷ出版作:エヴァン・グリフィス訳:多賀谷正子価格:1,760円(税込)あらすじ:11歳の夏休み、ピーターはすべてうまくやれるはずだった。けがしたマナティーも、救えるはず…。主人公にとってマナティーは、祖父の思い出で、親友との大発見で、心を落ちつかせてくれる存在。その保護のためにさまざまな人と関わり、奮闘する姿が胸を打つ、変化に向きあう勇気をくれる成長物語。とびたて!みんなのドラゴン:難病ALSの先生と日明小合唱部の冒険【選定理由】 練習場面・合唱場面の心理描写が巧みで、熱心に取材したことが伝わってくる。分量や難易度も高学年に適切で読みやすい。高校生向け作品の多い著者だが、本作も高いクオリティが評価された。【書籍情報】出版社:岩崎書店著:オザワ部長価格:1,650円(税込)あらすじ:難病ALSと闘う先生と小学生たちが合唱全国大会を目指す!人前で話せない内気なマナミや仲間たちの1年間の冒険と成長を描く感動の実話。中学校の部わたしは食べるのが下手【選定理由】 「食」という身近なテーマを扱い、主人公らの設定から、どの生徒にも事情があることを読者に気付かせ、世の中の矛盾を生徒目線で考えられる。大人への戦いではなく、解決を探る努力を描く。【書籍情報】出版社:小峰書店作:天川栄人価格:1,760円(税込)あらすじ:わたしたちが望む給食って、どんなだろう?会食恐怖症と摂食障害の悩みを抱えるふたりの少女がたどり着いた正しい“食”との向きあい方とは。背中を押してくれる先生や、さまざまな環境の友達とのかかわりを通して、少しずつ悩みと向きあっていくようすを描いた、食べることの大切さを教えてくれる物語。スラムに水は流れない【選定理由】 グローバルな視野を与えてくれ、世界を知っていくドキドキ感が、若干のサスペンス的要素とともに経験できる。主人公の行動にどう反応し、どのような読書感想文が書かれるかが楽しみな作品。【書籍情報】出版社:あすなろ書房著:ヴァルシャ・バジャージ訳:村上利佳価格:1,760円(税込)あらすじ:スラムはムンバイの人口の40%が住んでいるが水は5%しか供給されていなかった。兄が身をかくし残された少女ミンニは、水関連の事件や母が倒れるなど次々とふりかかる試練にまけず、知恵を働かせて難題をのりこえ、健気に生きぬいていく。鳥居きみ子:家族とフィールドワークを進めた人類学者【選定理由】 明治・大正・昭和時代の女性の活躍を主題にし、鳥居きみ子の情熱に火をつけてくれた人々の描写やフィールドワークについての説明も興味深い。伝記以外の部分でも読後の世界が広がる1冊。【書籍情報】出版社:くもん出版著:竹内紘子価格:1,540円(税込)あらすじ:「知の巨人」ともいわれた夫の鳥居龍蔵や家族とともに、「家族で調査・研究する」という形で挑んだ鳥居きみ子。女性の活躍が厳しい時代に人類学の研究に取組み、調査を進めた鳥居きみ子の生き様を描く。高等学校の部銀河の図書室【選定理由】 先輩の不登校の謎にせまるため、宮沢賢治の作品を読み解く過程に賢治へのオマージュが込められ、登場人物たちそれぞれが抱えている背景から、さまざまな角度の読書感想文が期待できる。【書籍情報】出版社:実業之日本社著:名取佐和子価格:1,870円(税込)あらすじ:高校の図書室で宮沢賢治を研究する弱小同好会・イーハトー部。部長だった風見先輩はなぜ突然消えてしまったのか…。先輩が残した宮沢賢治の言葉「ほんとうの幸いは、遠い」というメッセージに秘められた謎が、深く心に響く傑作青春小説。夜の日記【選定理由】 主人公の日記が『アンネの日記』を彷彿とさせ、日本人にとって縁遠い宗教問題や、アジア史を通して世界を知るきっかけになる作品。さまざまな気付きを得た読書感想文が期待される。【書籍情報】出版社:作品社著:ヴィーラ・ヒラナンダニ訳:山田文選:金原瑞人価格:2,420円(税込)あらすじ:イギリスからの独立とともに、分かれてしまった祖国。少女と家族は安全を求めて、長い旅に出た。自分の思いを言葉にできない少女は亡き母にあてて、揺れる心を日記につづる。『アンネの日記』をほうふつとさせる傑作。ニューベリー賞オナー賞受賞作。「コーダ」のぼくが見る世界:聴こえない親のもとに生まれて【選定理由】 聴覚障がいの親のもとに生まれた子供たち「コーダ」を取り上げたノンフィクション。著者の経験から、コミュニケーションとは、言語とは何かを高校生に考えてほしい1冊。【書籍情報】出版社:紀伊國屋書店著:五十嵐大価格:1,760円(税込)あらすじ:もし、親の耳が聴こえたら―なんて、想像もつかなかった。聴こえない/聴こえにくい親のもとで育つ聴こえる子供=「コーダ」。ろう者と聴者のはざまで生きる経験を通じ、言語やコミュニケーションの本質、「善意による差別」、自分と異なる人の立場を想像する難しさを知るノンフィクション。