
コンプレックスも多く、ストレスも人一倍抱え込んでしまうタイプだという登山家・渡邊直子さん。彼女がヒマラヤへ通い続けるのは、山への挑戦以上に、そこでしか得られない出会いがあり、自分らしくいられる居場所というのが何よりも大きいそう。
そして、40代50代の女性たちに、今渡邊さんの言葉が必要だと感じます。「人生の終わり」が少しずつ現実味を帯びてきて、「人生の折り返し地点、私これでいんだっけ?」と生き方の見直しをし始めるオトナサローネ世代。
社会で揉まれ、「本意ではないこと」も折り合いをつけて必死で生きてきたけれど、次第に「本来の自分」を見失っていく…。その積み重ねが、私たちの生きづらさや更年期世代の女性の心の不調につながっているような気がするからです。
「日本では生きづらい」と感じるという渡邊さんが、言葉通り「命がけ」で、自分を癒し素直に生きる姿に、背中を押される気持ちになります。人生に行き詰まったときの考え方、サードプレイスの重要性を伺いつつ、年齢を重ねても新しい一歩を踏み出し続けるマインドに迫ります。
▶「登山に興味がない人たち」がヒマラヤに集まる理由「成功しなくちゃダメ」ではなく「やってみたけどダメだった〜!」 という経験でもいいんじゃないか
――渡邊さんのヒマラヤ企画に参加する人は、必ずしも登山や登頂が目的ではないそうですね。
そう、むしろ登山には興味ないんだけど、ここで自分を変えたい、悩みを解消したい、何か新しいことやってみたいとか、刺激が欲しいっていう人が来てくれています。ちょっと行き詰まっていて一歩踏み出してみたいとか、メンタルを病んでいるという人もね。他だと経験がないと参加できないかもしれませんが、登頂にトライしたけどダメでした、というのでもいいと思ってやっている。成功しなくちゃダメだっていうのではなくて、やってみたけどダメだった〜! という経験でも全然いいんじゃないかなって。
――失敗をネガティブに捉えてないんですね。一回失敗したらもうダメ、みたいに重く捉えてしまいがちですが。
わざわざ私のところに来る人って、何が起こるかわからない冒険をしてみたいとか、未知の経験で何かを変えたいとか、やってみることに価値があると思って参加している方が多い気がする。だから必ずしも登頂がゴールじゃなくてもいいと思ってやっています。

――なぜ、そういった企画、活動をやろうと思ったのでしょうか?
頼りになるシェルパたちがいるからです。彼らがいなかったら、こういう企画はまずやらないですね。8000m峰にしか行かないシェルパたちの肝の座り方もすごいし、めちゃめちゃおもしろいコメディアンみたいな感じなんです。普通のトレッキングだとネパール人の、シェルパ族じゃないガイドがついて行くのですが、キャラが全然違うので、そこまでおもしろい思い出にはならない。私自身、登ることを目標に行ってるわけじゃないんですよね。シェルパたちと過ごす時間が楽しくて、それをみんなにもおすそ分けしたい。シェルパ一族ってこんなにおもしろいんだよっていうのを体験してもらいたくてやっているんです。シェルパありきの企画なので、ちゃんと働いてくれなかったら、お客さんの一人としてしっかりクレーム入れますから(笑)。私はリーダーとか先生みたいな立ち位置じゃないので、参加者も気が楽だと思います。
――どのような感じで、みなさん楽しまれていますか?
登山には興味がなくて、ネパールの文化に興味があって参加した人だったのに、企画に参加後、次は8000m峰に登ってみたいと改めて参加表明してきた人もいます。登山には興味ないと言っていたのに、なんでそんな方向転換したのか。別に山登りが楽しいわけじゃなくて、シェルパたちと過ごす時間が楽しかったみたいです。シェルパってすごく強靭な人たちっていうイメージがあるんですけど、素朴で可愛いことをしたりするんですよ。そういう彼らとの触れ合いが本当に楽しかったと、みなさん笑顔で帰っていく感じですね。
▶体力の衰えは感じている?――登山経験はないけれど参加するという度胸も、要望に応えて連れて行く渡邊さんもすごいですね。
たぶん、普通の人間の私がやれたんだから、自分にもできるのでは、と思ってくれたんじゃないかな?
――えっ、渡邊さん、普通ですか!?
ごく普通の、一般人です(笑)。私はアイスクライミングもロッククライミングの練習もやったことがない状態で8000m峰に行っていましたから。
――登山をされていくなかで、年齢を気にするということはないですか?
現時点では、体力の衰えを感じたことはまだ一回もないです。看護師生活をしていると、仮眠してすぐ起きられなくなってきたな、などと感じることは出てきましたが、山では全然ない。
そもそも、人生は短いって思いながら生きているので、やりたいことは今やっておかないと……という思いが人一倍強いんです。今の年齢なんてどうでもいい。死ぬまでのカウントダウンなんだから、新しい体験をやっておかないとと思っているので、つねに焦っています。まだやってないこといっぱいあるのに、明日死ぬかもと思うと、早くやらないといけないなって。

▶▶「いじめ」にあっても生き延びるために大事なこととは。私がヒマラヤに行く理由は「挑戦」ではなく




