
突然ですが、質問です。結婚したら、あなたの貯金は誰のものでしょうか? 法律上、結婚以降に増えた残高は夫婦の共有です(民法762条)。あなただけでなく配偶者(夫や妻)にも権利が発生するのですが、令和の時代は頑張れば頑張るほど「個人」が報われることが増えています。そんななかで、件の条文は時代錯誤だと思われるかもしれません。
それが嫌なら離婚するしかありません。なぜなら、夫婦の共有は離婚と同時に終了するからです。厚生労働省の人口動態統計によると2024年の離婚件数は約18万組。10年前(2014年)は約22万組だったので減少傾向です。
では財産は夫婦の共有から夫や妻の固有に変わったら、どうなるのでしょうか?具体的には結婚している間に増えたお金を「夫何割、妻何割」という形で分け合います(民法768条)。
これを離婚に伴う財産分与といいますが、本当にそんなことをやっているのでしょうか?筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっていますが、法務省が公表している司法統計(2024年)によると結婚1年以上の夫婦(1,472件)の場合、財産分与を取り決めたのは10%(160件)、結婚10年以上(912件)の場合は38%(350件)、結婚20年以上(2,282件)の場合は49%(1,115件)と上昇していきます。
結婚の期間が長くなればなるほど財産は増えるのが基本なので、財産が多ければ多いほど請求率が高くなるのは当然といえば当然です。
ところで財産はプラスばかりでしょうか?マイナスの財産…借金を抱えている夫婦もいます。法律の条文を当てはめると「夫が作った借金も夫婦の共有」ですが、いくらなんでも理不尽でしょう。
例えば、「やめてください」と何度、頼んでも借金をやめず、それでも何とか結婚生活を維持するため、家族の貯金、子どもの手当、そして実家からの援助まで返済に充てきたのに…そんな夫の散財癖に愛想がつき、いよいよ離婚を考え始めたのが今回の相談者・長屋朋子さん(41歳)です。どうすれば夫の「火中の栗」を拾わず、今まで失ったお金を取り返した上で別れることができるでしょうか?
なお、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。また夫婦や子どもの年齢、女遊びの経緯や証拠、借金の金額や返済の方法、親族の関係や相続の理由などは各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。
<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は相談時)>
夫:長屋亮平(42歳)会社員(年収550万円)
妻:長屋朋子(41歳)会社員(年収350万円)
長女:長屋朋矢(6歳)亮平と朋子との子
夫の父:長屋治夫(64歳で逝去)
夫の母:長屋陽子(66歳)年金生活
夫の父の前妻:板倉雅子(66歳で逝去)
夫の異母兄:板倉幹也(48歳で逝去)
【行政書士がみた、夫婦問題と危機管理 #18】
夫のスマホに怪しいアプリが入っているのを発見
朋子さんが夫との関係がこじれたきっかけは1通の通知でした。夫のスマホに「メッセージが届いています」と表示されたのですが、これはLINEでもメールでもメッセンジャーでもなく、「既婚者同士の出会い系アプリ」だったのです
朋子さんが「何なの、これ?!」と問いただすと、夫は悪びれる様子もなく…「ふざけて入れただけだよ。そんなに言うなら消すよ」と言い、朋子さんの目の前でアプリを消去したのです。筆者が「これで一安心じゃないですか?」と言葉をかけると、智子さんは「疑いが消えることはありませんでした」と回顧します。なぜなら、夫は在宅中、トイレに行くとき、いつもスマホを持って行ったからです。
「トイレで何をこそこそやっているのか…どうしても気になって」と朋子さん。夫の就寝中に夫のスマホを手に取り、スマホの画面に夫の人差し指を乗せて指紋認証を解除したことを懺悔しました。そうすると例のアプリが復活していることを発見。アプリを開くと女性からのメッセージが山のように表示されたのです。
例えば、「世界一、大好きな人!」「今度、いつ会えるの?待ちきれない!」「ホテル直行でいいの?どこかで待ち合わせする⁉」など不倫が疑われる内容の数々に朋子さんは唖然とするしかありませんでした。さらに「ご飯だけなら1万円でいいよ。ホテル行く場合、本番なしなら2万円、ありなら5万円だよ」とパパ活を疑わせる内容まで含まれていたのです。
一般社団法人・日本家族計画協会家族計画研究センターが2017年に調査した結果によると既婚男性(40代)は67.5%が「不倫をしたことがある」と答えています。
まず朋子さんは夫のスマホ画面を自分のスマホで撮影して証拠に残すと、就寝中の夫を叩き起こし、「どういうことよ!」と激高したのです。そうすると夫は焦る様子もなく「ああ、これはゲームだよ。こうやって彼女たちを口説くのはゲームなんだ。何人おとせるかってね!」と正当化するのです。
そこで朋子さんは「ゲームならゲームでいいわ。でも、こうやって女の人と付き合っていることを知って、私はすごいショックなの!私の気持ちはどうでもいいの!?」と聞きただすと、夫は「はぁ~」とため息をついた上で「お前はお前だよ。彼女たちは遊びだよ!? 息抜きするのもいけないの?」と真顔で言うのです。
朋子さんは「もう話にならない!」という感じで話を打ち切ったのですが、結局、夫は女遊びをやめるはずもなく、今まで通りに続けている状態。そして朋子さんは黙認するしかなかったのですが、食事代、ホテル代、そして女性に渡すおこずかい。彼女たちを口説くにもお金が必要ですが、夫はどこでもいるサラリーマンで年収550万円です。筆者が「旦那さんはどうやってお金を工面したのですか?」と質問すると、朋子さんは深いため息をつきます。
▶子どものための定期貯金も児童手当も、夫が全部使ってしまった…
子どものための定期貯金も児童手当も、女性たちのために消えた…
はじめて夫の散財を発見したのは銀行のATMでした。朋子さんが通帳を記入しに行ったところ、あるはずの定期預金がなくなっていたのです。これは子どもが産まれるまでの間、夫婦の給料から少しずつ貯金し、200万円に達した時点で預け替えたものでした。解約日はちょうど1ヵ月目。朋子さんは「名義は主人です。やったのは主人しかいません!」と声を荒げます。
さらに普通預金の残高を確認したところ、わずか数千円しかありませんでした。この口座には児童手当が2ヵ月に1回、1回につき6万円が振り込まれていたのに。朋子さんは「出金しまくったのも主人に決まっています!」と真っ赤な顔をします。そこで朋子さんは市役所の子ども家庭課へ行き、手当の振込口座を夫名義から朋子名義へ変更する手続を行ったそうです。これで一息つけるかと思いきや、今度は母親から電話がかかってきたそうです。
「学資保険のお金が落ちてないみたいなんだけど…」と。これは朋子さんの両親が孫のためを思い、学資保険に加入してくれ、保険料を負担してくれたのです。具体的には父親の口座から毎月引き落としていたのですが、今月から引き落としがされていないとのこと。解約払い戻し金を手にするために、夫が勝手に保険を解約していたのは明らかでした。朋子さんは「主人の顔を立てるため、契約者を主人にしたのが間違いでした」と肩を落とします。
ソニー生命の「子どもの教育資金に関する調査(2025)」によると高校生以下の子どもが持つ家庭において学資保険の加入率は38.4%。世帯年収ごとに見ると400万円以下の家庭では22.5%、400~600万円の家庭では39.2%、600~800万円の家庭では45.2%でした。
夫の女遊びのために貯金してるわけじゃない!
このように夫の散財のせいで夫婦のお金、子どものお金、そして両親のお金まで目減りする状況。その額は500万円。朋子さんが何度「やめて!」と頼んでも、夫はやめる気配がありません。これでは家族みんなで夫の女遊びに協力しているようなもの。このような夫はいない方がいい。朋子さんはそんなふうに思い詰め、絶望し、そして離婚の二文字が視野に入ります。
夫婦の財産が共有から夫、妻のものに切り替わるのは離婚するときです。具体的に夫何割、妻何割になるのでしょうか?法務省が公表している司法統計(2024年)によると按分割合について決定したのは8,453件。そのうち、夫5割、妻5割で分け合ったケースが99%(8,420件)に達します。しかし、朋子さんの場合、借金を折半したら大損です。離婚したくてもできない状況で、思いがけぬ出来事が発生したのです。
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