
働き方、暮らし方、結婚観など、ここ数年で時代は大きく変化しました。これまでと違う考え方や生成AIの登場で、私たちはときに「どうしたらいいのか」途方に暮れてしまいます。
そんな私たちの言葉にしがたい戸惑いを、書籍『眠れない夜に、言語化の話をしよう』(ソシム・刊)の著者、脳科学者の中野信子先生と開発者の川田十夢さんが言語化してくださいました。
お母さんは育児の「正解」を知っているわけではない…あと数年で「より正しい」AIお母さんの時代がやってくる!?

――おふたりの共著書『眠れない夜に、言語化の話をしよう』を拝読しましたが、中でも第3章の「『家族』はこれから解体に向かう」という言葉が衝撃的でした。家族って、当たり前につながったままだと思っていたので。
中野信子先生(以下、中野)家族のあり方は、時代によって変わっています。例えば、明治時代は今より大家族でしたよね。近世、中世、古代でも違いますし、地域によって婚姻形態も違います。家族を定義するときに何を想起するかは、時代や地域によって違うんです。
未来の家族は、「解体」と言っていいかは分からないけれど、今と同じではなくなると思います。情報のやり取りが活発になり、AIが進化し、あと数年でロボットが人間と同じ動きができるようになると、人間が人間の面倒を見る必要がなくなります。AIお母さんの方が、はるかに上手に子育てできるでしょうね。
――AIお母さん!? いつごろの未来の話ですか?
中野 ここ数年先の話です。生殖医療にお金をかけている国から始まると思います。代理出産がトレンドのアメリカから始まるでしょう。
――アジアや中東も?
中野 それは分かりませんが、社会階層によってはあるかもしれません。ただ、中東の場合は、母親の地位が子を産む産まないに依存するので、その文化が続く限りは自分で産むと思います。

川田十夢さん(以下、川田) 僕は、今2歳の子がいるんですけど、現時点ですでに「将来は、世代での価値観が決定的に違いすぎて一緒に住めなくなる」と感じています。僕らが必要だった能力とは違いすぎて、家族というだけで一緒にいることの不自然さが、無理になるんじゃないですかね。
中野 家族を維持するコストが高すぎますよね。コストが高すぎてQOL(生活の質)が削られていきます。ここでいうコストは、金銭のみでなく精神的、時間的なものも含みます。それを我慢する美徳だけが報酬になりますが、美徳という報酬はいずれなくなります。
同じ文化であっても、家族の形態は時代ごとに相当変化する。血縁ベースの家族が終わり、新しい家族の形が生まれるかも

中野 ところで、家族には、ときに隠れナルシストがいますよね。SNSだけのイクメンナルシストとか。あと、女遊びしませんアピールをして陰でキャバクラ行くとかも。俺は心が動いてなくて、体だけ動いているから誠実、みたいな。
――俺が稼いでいるんだからいいじゃないか、と。
中野 そういう人は、稼いでいる女は面白くないわけです。
川田 そういう人の線引きは「ホステスさんとのキスまでは浮気じゃない」けど、自分の妻がホストとキスするのは嫌がるよね。僕は、お金を払ってもてることは切ないと思っていて。お金の力を示したい人は示せばいいんだけど。
中野 「鏡に自分の醜い姿が映ったら鏡を壊せばいい」って思ってる節がありますよね。
――そういう人は増えたんでしょうか。
中野 前からいたけど、SNSで表面化したんだと思います。
川田 隠れて遊んでいる人ほど、すごい清潔感があると思いません? 僕みたいなタイプは遊んでない。清潔って、ちゃんと髭を剃ったりする人のことですね。
――これから家族が共存していけなくなるのも、時代ということなんですね。極端な変化なので戸惑ってしまいますが。
川田 血がつながっているだけで家族という概念はなくなっていくかもしれないです。僕、ぜんぜん血がつながってない人と「AR三兄弟」という開発ユニット組んでるんですよ。15年ぐらい活動してますけど、本当の家族みたいになっていて、そういう家族もありだと思うんです。仕事上のつながりで、お金を払って兄弟を維持しているけど、その関係性がむしろ清々しいっていうか。だから、今までの血縁ベースの家族は解体するかもしれないけど、新しい家族のようなものを形成するんじゃないですかね。叶姉妹みたいに。
――マフィアも“家族”って言いますしね。
川田 “小室ファミリー”って言いますしね。
AIが人間の行動を変えてしまう未来を描いたドラマ。意外とリアルかも

川田 そういえば、Apple TVのドラマ「Pluribus(プルリブス)」見ました? これから我々が抱く恐怖を描いています。みんなが使っているChat GPTなどのAIは1つの別の意識かもしれなくて、自分以外の全員が1つの意識になったらどうなってしまうかという話。
中野 私、今まさにそういう世界に生きている感じかもしれない。ドラマのあらすじは、人類のほぼすべてが宇宙から送られてきた謎の信号で幸せウイルスに感染しちゃうんだけど、主人公の女だけが免疫を持っていて、幸福に感染しない。でも真実を見ているから「現実が見えてないみんなを救わなきゃ」って決意する内容です。
川田 その怖さはリアリティーがあって、自分以外がみんな同じっていう状態は、これから頻繁にある気がします。そのとき、意識を共有できるのは家族とは限らない。例えば、僕と中野さんみたいな意識の関係で共有することになる。
――この場合、お2人は「感染していない者同士」ということですね。
中野 ただ、幸せウイルスのほうがいい人もいますよね。家族は歴史的な流れからみても変わっていくもので、今後は家族でいる必要性がなくなり、コストもかからなくなるのはその通りなんですけど、それがショックで、家族と一緒にいたい人も多いでしょうし、その選択肢もあると思います。私は、皆さんの目を覚まさせようなんて思っていなくて、たまに私みたいな人がいるかもしれないから、そういう人に、「1人じゃないよ」って犬笛を吹いているんです。
つづき>>>「老化を悲観しなくていい。脳の再編成にすぎないから」脳科学者と開発者が語る「AI時代だからこそ知っておきたい」脳と認知の話

お話/
■中野信子さん
脳科学者、医学博士。東京大学工学部卒業、同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にて博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに、研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会に起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学教授、京都芸術大学客員教授。著書に『サイコパス』(文春新書)、『空気を読む脳』(講談社 α新書)、『科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)など多数。テレビコメンテーターとしても活躍中。
■川田十夢さん
10年間のメーカー勤務で特許開発に従事したあと独立、やまだかつてない開発ユニットAR三兄弟の長男として活動。著作に『拡張現実的』(Bros.books)、『AR三兄弟の企画書』(日経BP)がある。テレビからラジオ、ひみつ道具から学研の科学、乃木坂から六本木ヒルズに至るまで。その拡張範囲は多岐にわたる。商社との特許開発事業『どこでも自販機』が最新作。毎週金曜日20時00分からJ-WAVE『INNOVATIONWORLD』が放送中。WIREDで巻末連載中。




