日本出版販売は2025年11月19日、全国約2,500書店のPOS販売データを基にした「2025年年間ベストセラー」を発表した。年間総合1位には「大ピンチずかん3」が輝き、シリーズ初の快挙を達成した。 ベストセラー情報は、約2,500軒の書店のPOS販売データを基に、全国の書店での販売状況を総合的に勘案して作成している。集計期間は2024年11月20日~2025年11月18日。 2025年のベストセラーは、身体や心の癒しにつながる作品や、共感をもたらす作品、すでに定評のある作品がランキング上位を占める結果となった。ここには、近年高まっているウェルビーイング志向や「失敗しない選択」をしたいという消費者の志向が強く表れていると考えられる。とりわけ、口コミやSNS評価における共感性や確実性の高まりは、近年のベストセラーランキングを大きく左右する要因になっている。 なお、2025年に大きな旋風を巻き起こした「国宝」は、文庫のため総合ランキングは対象外としているが、口コミで話題となって圧倒的な売れ行きを記録した代表例であり、「2025年を象徴する作品」として、堂々の文庫ジャンル1位を飾った。 年間総合1位の「大ピンチずかん3」は、日常に起こる「あるある」なピンチをユーモアたっぷりに紹介し、そのピンチを通じて子供が自分の失敗や感情を受け入れるきっかけを作る作品として、子供から大人まで多くの共感を集めた。シリーズ累計270万部の大ヒットとなっており、シリーズを重ねるごとに売り上げを伸ばし、ついにシリーズ3作目で上半期・年間総合1位を獲得した。 2位には第22回本屋大賞受賞作である「カフネ」がランクイン。現代社会の問題や厳しい現実に傷ついた人々が、「食」を通じて心を癒し、生きる力を得ていく姿を描いた本作は、読了後に大切な人を抱きしめたくなるような温かさや癒しをもたらすと話題になり、上半期の総合3位から、1つ順位を上げた。 3位には、「改訂版 本当の自由を手に入れる お金の大学」がランクイン。昨今の物価高を背景に、自分の働き方やお金との向き合い方を見直す人が増えたことが、本書が継続して支持される理由だと考えられる。また、20位の「覚悟の磨き方」は、幕末期の思想家・教育者である吉田松陰が残した言葉を現代人にあわせて超訳した内容で、働き方や価値観が多様化する現在、「自分はどう生きていくのか」を問う人々に愛読され、2013年の発売ながら、いまもなおロングセラーとしてランクインしている。自己を高め、経済的、社会的に良好な状態を実現するヒントとなるビジネス書が総合ランキングでも目立つ結果となった。 6位には雨穴の最新作「変な地図」が、2025年10月末発売にも関わらずランクイン。図や絵を多く用いている本書は、それらをヒントにまるで自分が謎解きをしているような体験ができる作品。「変な」シリーズのヒットもあり、雨穴への注目度の高さがうかがえる。 単行本フィクションジャンルでは、総合2位にもランクインした、第22回本屋大賞受賞作である「カフネ」が、上半期に引き続きジャンル1位を獲得した。作中では、弟を失った主人公・薫子が、弟の元恋人である料理人のせつなに出会い、「食べること」を通じて生きる希望を取り戻していくようすが描かれている。現代社会で生きづらさを感じている人に寄り添う物語として共感と支持を集め、上半期に続く連覇となった。 2位には、雨穴の「変な」シリーズ最新作「変な地図」がランクイン。雨穴作品に欠かせないキャラクター・栗原が主人公となり、図や絵で「古地図」の謎を読み解く新感覚のミステリーとして話題に。 3位にランクインした「謎の香りはパン屋から」は、第23回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。パン屋×ミステリーという新しい組み合わせで、ミステリーの要素がありながら、ほっと心があたたまるストーリーと、読んでいると焼きたてのパンの香りが漂ってくるかのような描写で、引き続き人気を伸ばした。 4位には背筋の「近畿地方のある場所について」がランクイン。2023年8月の単行本発売時から注目を集め、2025年7月には単行本とは異なる内容の文庫版が発売、8月には映画化と話題を呼んだことで、上半期6位から順位を上げた。 単行本実用ジャンル1位は第12回料理レシピ本大賞の料理部門 大賞受賞作「すべてを蒸したい せいろレシピ」が獲得。油を使わずに調理できる「せいろ」は、調理器具としての使いやすさやヘルシーさが支持されて注目を集めている。また、「心も体ももっと、ととのう 薬膳の食卓365日」や、「一生役立つ きちんとわかる栄養学」などがランクインしていることから、身体的・精神的に良好な状態を求める志向の高まりがランキングにも反映されていることがうかがえる。さらに、NHKドラマがきっかけとなり、薬膳に関心が寄せられたことも理由のひとつだと考えられる。 2位の「世界一簡単!70歳からのスマホの使いこなし術」は、上半期の単行本実用ジャンルで1位となった後も人気が持続し、スマホ操作に不安をもつシニア層にとって頼りになる一冊として定着している。3位の「とっさに言葉が出てこない人のための脳に効く早口ことば」は、脳トレ博士として知られる川島隆太教授と、早口ことば芸人の大谷健太がタッグを組んだ脳トレ本。シニア層の悩みに応える実用書が上位にランクインする結果となった。 5位には世界的に大ヒットしている謎解き本「ミステリー・パズル MURDLE」がランクイン。次々と起こる殺人事件を名探偵が解決していくという物語性のある謎解き本で、頭を使う推理パズルの要素に読み物としての面白さが融合したことで、パズルファンだけでなくミステリーファンの支持も集めていると考えられる。文庫 文庫ジャンルでは、「国宝」が圧倒的な売れ行きで堂々の1位を飾った。歌舞伎役者という生き方にすべてを捧げた人間の人生を生々しくも美しく描いた本書は、2021年9月に文庫版が発売され、2025年6月の映画公開によって映像の美しさや世界観が加わり、口コミで広がった映画の大ヒットを追い風に、電子版も含めたシリーズ累計発行部数は200万部を突破した。 2位は、上半期ベストセラー文庫ジャンルで1位だった「青い壺」が年間ベストセラーでもランクイン。2011年に復刊され、原田ひ香による推薦帯や様々なメディアで取り上げられたことが反響を呼び、口コミが広がったことで現在もヒットが継続している。「国宝」、「青い壺」ともに、メディアでの話題性と消費者の確実性志向の強まりがリバイバルヒットを生み出した結果ともみてとれる。 7位には、実際に起きた事件を題材にした小説「BUTTER」がランクイン。2024年に英語版が刊行され、「The British Book Awards 2025」のDebut Fiction部門を含め、イギリスで3つの文学賞を受賞するなど、フェミニズム小説として高く評価され大ヒット。この夏には世界累計100万部突破を記念した日英リバーシブルカバーが登場し話題となった。新書ノンフィクション 新書ノンフィクションジャンルは二宮和也による初の新書「独断と偏見」が1位となった。本書は、二宮和也が10の四字熟語をテーマにした100の問いに答える形式で構成された一冊。タイトルの「独断と偏見」は、一般論ではなく独自の視点に基づいた個人的な見解が多かったことに由来しており、自身の感情をストレートに表現した内容が大きな反響を呼んだ。 2位には「人生の壁」がランクイン。著者の養老孟司が自身の半生を振り返り、悩み多き現代人に向けて「どうやって壁を乗り越えるか」を語る内容で、上半期から引き続き、幅広い世代の読者から支持を得た。 5位の俵万智「生きる言葉」は、自身の体験と歌人という視点から、現代の様々な場面において、言葉の力を使って他者とどのようにコミュニケーションをとるべきかを示唆する内容。SNS時代の現代において、言葉のあり方・使い方に悩む若い世代や、俵万智自身の子育てエピソードに共感した子育て世代からの支持が、ヒットにつながったと考えられる。