「学校に行きたくない!」に「なんで?」と聞き返すのが、ナンセンスな理由とは。不登校家庭を20年以上指導してきて、見えてきたこと【公認心理師が解説】 | NewsCafe

「学校に行きたくない!」に「なんで?」と聞き返すのが、ナンセンスな理由とは。不登校家庭を20年以上指導してきて、見えてきたこと【公認心理師が解説】

女性 OTONA_SALONE/LIFESTYLE
「学校に行きたくない!」に「なんで?」と聞き返すのが、ナンセンスな理由とは。不登校家庭を20年以上指導してきて、見えてきたこと【公認心理師が解説】

この「不登校の答え合わせ」は、登校に困難を抱えた経験がある方に、今だから語れる思いをお聞きするインタビューシリーズ。いまや40万人にのぼるともいわれる不登校児童生徒当事者や、それを見守る大人たちにとってのヒントを探ります。

今回からは「番外編」と題して、入学・進級を迎えた4月~GW明けにかけて急増する「登校渋り」や「不登校」への対応法を専門家にお聞きします。解説は、不登校・発達障害の児童生徒を中心とした個別学習指導に20年以上携わる、公認心理師の植木希恵さん。

「我が子に『行けない』と訴えられたら、心配や焦りを抱くのは当然。でも、『あなたのためを思って』という親の言葉や行動は、多くの場合、親の安心や保身に端を発している。さらに親自身は、その事実にすら気づけていないことも珍しくない」と植木さん。一生懸命で頑張り屋な親ほど陥りやすい「初期対応の誤解」について紐解きます。

今回は、「行きたくないと言われたら、まずは『原因』を特定すべし!」という誤解についてお聞きしました。

【不登校の答え合わせ|学校に行きたくない編】

「行きたくない」のその瞬間、理由を語れない子が大半。原因や理由の前に、まずはそこに至るまでの葛藤を受け止めて

shutterstock

「学校に行きたくない」――そう言われれば、思わず「なぜ?」と聞き返したくなるでしょう。ところが、本人からの答えは曖昧……ということも。そこで、まずは親御さんに知っておいてほしいことが2点あります。

1点目は、学校に行きたくない本人も、理由を特定できないのは珍しくないということ。私が主宰する個別指導教室内の感覚値ではありますが、登校に困難を抱える子どもたちの8割は、理由を明確に説明できません。理由を語れる2割は、いじめなどのケース。それ以外は、「複合的な要素が絡み合い説明が難しい」「子どもが自分の内外での事象をまだ整理・言語化できない」などのケースが大半です。

2点目は、理由を「語らない」場合もあるということ。子どもだからといって、親に全てを話す義務はありませんし、相手が親だからこそ話せない場合もあるはずです。我が子が何かを隠していても、それは裏切りではありません。「この子の心の1番大事なところはこの子のもの。一人で持っていてもいい」という視点を、前提かつ大切にしてほしいと思います。

shutterstock

いずれの場合も、子どもはそれまで、頑張って頑張って頑張り抜いた結果、「やっぱり行きたくない」と勇気をもって口にしているはず。親のショックは本当によくわかりますが、その気持ちは一旦脇に置いて……まずは子の逡巡や葛藤を受け止めてほしいです。自らの内に混乱を感じるなら、専門家や程よい距離感のある人を利用して、大人側気持ちや情報整理することをおすすめします。最近は、オンライン対応可能なカウンセラーも多いですよ。

「行きたくない」の原因追求=「大人が安心したいだけ」。突き詰め過ぎると、子どもを混乱させたり追い詰めたりする場合も

shutterstock

「理由をはっきりさせたい」――そう考える大人の気持ちの根っこを辿ると、見えてくるのは「何もしないままでは不安!できることがあるならやりたい!!」という思いなんですよね。ただ手をこまねいているより、少しでも動いていた方が安心できますから。

もちろん、「いじめ」など明確な事象がある場合は、原因を取り除くべく動いてあげるべきです。ところが、それ以外の「理由が“漠然”としている状態」では、親が“良かれと思って”本人の訴える原因を一つずつ潰していった結果、親子共に救いを失う場合が少なくないのです。

shutterstock

子どもがひねり出した「○○に困っている」「△△がいやだ」という一つ一つの理由に大人が対応する。ところが、子どもはやっぱり行けないまま――。すると、子どもは「結局は自分が悪い」「どうして私はこうなんだろう」と、逃げ場がなくなります。一方の大人も、「これだけやってあげたのに」「本人の怠けでは」「自分の課題に立ち向かえない子だ」と思い込みがちです。原因追究の結果、双方が絶望するとなれば、誰も幸せではありませんよね。

もちろん、場合によっては、子ども自身が変化したり、世の中に合わせたりする必要があるのかもしれません。でもその課題には、自己理解が深まり、時が満ちたときに向き合えばいい。周りが焦って追い詰める必要はないはずです。

「登校渋り・不登校」は、親ではなく、あくまでも子ども本人の人生の課題。「問題の正体さえわかれば、親が解決してあげられる」というのは、そもそも大きな勘違いです。

理由を問えば、子どもはひねり出す

shutterstock

「子どもが理由を語れないケースが多い」一方で、「大人が尋ねれば、子どもは理由をひねり出す」のもまた、事実です。

大人でさえ、もし「何かストレスがあるの?」と聞かれれば、それまで気にもしていなかった「ストレス」を、急に探し回るもの。子どもだったらなおさらです。こんなやり取りで一生懸命ひねり出した「子どもなりの理由」たちの間には、やがて辻褄が合わない部分が出てくることも。そうなれば、子どもも大人も混乱します。無理に語らせることに、メリットはないのです。

shutterstock

親としてはもどかしいですが、今すべてを分かる必要はありません。むしろ、最後まで分からないままでも大丈夫。それでもあえて、こちらから問うのであれば、「何のために問おうとしているのか?」「この問いは、(親ではなく)この子にメリットがあるのか?」という視点をもって、質問や聞き方を選んでほしいと思います。

ちなみに、「簡単に泣く年頃ではないはずなのに、一人で泣いている」「心ここにあらずでふさぎ込んでいる」など、明らかに気になる挙動があれば、その時は下手に待たず、「親の権力」を発動してください。「未成年の保護者として、保護・看護の責任があるので、何があったか教えてください」と、聞き取りをしてみてくださいね。

■ 「不登校の答え合わせ」シリーズを読む
空っぽのランドセルに詰め込んだ、精一杯のSOS。「学校に行きたくない」と言い出せなかった不登校児の、学校と母への本音

《解説》

植木希恵(うえき・きえ)

不登校・発達障害専門個別学習指導 きらぼし学舎代表・公認心理師。カウンセリングルーム勤務や中学校の非常勤講師を経て、「不登校・発達障害傾向の子ども専門家庭教師」として独立。2014年、広島市で「きらぼし学舎」を開業。「心理カウンセリング✕学習」というスタイルで多くの生徒、保護者とセッションを20年以上続けている。2018年からは、母親に子育ての視点を提供する「お母さんのための心理学Web講座」を開講。「子どもの見方が変わった」「子どもへの接し方、言葉のかけ方が変わってきた」と評判を呼び、現在は毎期100人以上の受講生を誇る。2023年、自著「おうち学習サポート大全」(主婦の友社)を上梓。


《OTONA SALONE》

特集

page top