
モラハラ・夫婦問題カウンセラーの麻野祐香です。「働く女性」は、モラハラやDVをする夫から簡単に逃げられるのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。さまざまな事情から、支配的な配偶者との結婚生活を続けている方は少なくありません。
オトナサローネ世代のモラハラ被害にフォーカスした本連載、今回は、会社を経営する夫のモラハラに長年悩んできた、65歳のFさんのお話です。
※本記事は、相談者様への敬意と守秘義務に十分配慮したうえで、モデルケースとして編集・再構成しお届けしています。特定の人物や事例を示すものではありません。
※写真はイメージです
「俺に逆らう人間はいらない」が口癖の夫
Fさんの夫は、小さな会社を経営しています。
「俺に逆らう人間はいらない」
「俺のやり方が嫌なら辞めればいい」
夫はその考えを変えることなく、社員に接していました。
社員が仕事について意見を言えば、
「誰に向かって言ってるんだ」と怒鳴り、ミスをした社員を、ほかの社員がいる前で激しく叱責することもあります。夫にとって、自分と違う意見を言う社員は、「会社をよくするために意見を言っている人」ではありません。「社長である自分に逆らう人」になってしまうのです。
当然、社長である夫の横暴さに耐えられず、社員はなかなか定着しません。特に事務の仕事は夫と接する時間が長いため、新しい人を採用しても、すぐに辞めてしまいます。妻のFさんは、妹と共同で雑貨店を経営していましたが、事務員が辞めるたびに「次の人が見つかるまで手伝って」と言われ、仕方なく夫の会社を手伝うようになりました。
新しい人が入ると、Fさんがつきっきりで仕事を教えます。しかし夫は、そんな様子を見て「仕事ができないやつに給料を払うのか」と、またその事務員に暴言を吐くのです。そして、結局また辞めてしまう。そんなことが繰り返されました。
その結果、Fさんは自分の仕事を続けながら、夫の会社の事務まで担うことになったのです。夫は「根性のないやつしかいない」と辞めた人たちの悪口を言います。その言葉を聞くたびに、Fさんは心の中で「違う。あなたの下で働きたくないだけでしょう」とつぶやいていました。
「自分に逆らう人間はいらない」
モラハラをする人には、こうした支配的な考え方が見られることがあります。
「自分と相手は対等ではない。自分が上で、相手は下。だから、自分の考えに従うのは当然で、違う意見を言うことは許さない」
こうした考え方です。
そして、この考え方は家庭の中にも持ち込まれます。
本来、夫婦にはそれぞれ違う考えがあって当然ですが、モラハラをする人は、「妻には妻の考えがある」と受け止めることができません。自分の思いどおりにならないと、
「俺を否定した」
「俺に逆らった」
と捉え、妻に怒りを向けるようになります。怒鳴る、威圧する、不機嫌になる(フキハラ)、このような手段を使い、自分に妻を従わせようとするのです。
自分より強い人の前では別人になる夫
Fさんが夫に最も嫌悪感を抱いていたのは、相手によって露骨に態度を変えるところでした。社員にはあれほど偉そうに振る舞うのに、自分より立場が上の人の前では、まるで別人になるのです。取引先の役職者と会えば、
「さすがですね!」
と媚びた笑顔で相手を持ち上げます。
普段なら絶対に言わないようなお世辞を口にして、相手の機嫌を取るのです。そんな夫の姿を見るたびに、Fさんはゾッとしました。
夫は、自分より立場が上の人には低姿勢なのに、自分より弱いと判断した相手には横柄になります。これも、モラハラをする人に見られる特徴のひとつです。妻や社員など、「自分が強く出ても大丈夫」と思っている相手に対しては、威圧的な態度を取ります。
その一方で、外では「感じのいい人」「腰の低い人」を演じます。人からどう見られるかをとても気にし、「いい人だと思われたい」という意識が強いのです。モラハラが当事者以外には理解されにくいのは、こうした二面性も理由のひとつです。
家に帰れば、家事はすべてFさんがしています。掃除も洗濯も食事の支度も、どれだけ忙しくても夫が手伝うことはありません。夫がたまにするのは、ゴミ捨てくらいでした。それでも数回ゴミを捨てただけで、夫の中では「自分は家事をしている」つもりになっているのです。
一方で、Fさんが毎日していることは「やって当たり前」。感謝の言葉もありません。
これは、単なる家事分担の問題だけではありません。モラハラをする人は、自分が少しでもしたことは大きくアピールする一方で、相手が日々していることには目を向けようとしません。自分が一度したことは、大きな貢献として主張する。妻が毎日していることは、「やって当たり前」。そんな相手と暮らし、自分ばかりが苦労する状態が続けば、誰しも「なんだか、バカバカしい……」と、虚しさを感じるようになります。
否定的なことばかり言われて
Fさんが何より苦痛に感じていたのは、夫の言葉がいつも否定的なことでした。テレビで娯楽番組を見ているときも「こんなやつがいるからダメなんだ」と馬鹿にし、ニュースを見れば「こんな政治だから、世の中がよくならない」と上から目線で持論を語り、スポーツを見ても「こいつ、本当に下手だな」と、自分ができるわけでもないのに選手を貶す。
外食に出たときも「この程度でこの値段かよ」と食事の文句を大きな声で言うので、Fさんはハラハラします。そして日常でFさんが何か話しても、「いや、それは違う」「お前はわかってない」と、とにかくまず否定。
そして、気に入らないことがあると
「チッ」
と舌打ち。
「はぁー」
と、わざと聞こえるような大きなため息。
毎日一緒にいる人から、否定的な言葉や不機嫌な態度を浴び続ける。それは、想像以上に心を疲れさせます。モラハラは、怒鳴る、暴言を吐くといった、わかりやすい行為だけではありません。このような不機嫌な態度によって相手を緊張させることも、モラハラなのです。Fさんは、夫が舌打ちやため息をつくたびに、胸がギュッと締めつけられるような感覚になっていました。
夫は、人の話を聞くのは苦手なのに、自分の話は延々と続けます。特に多いのが、自慢話です。自分が仕事でどれだけ評価されたか。誰と知り合いなのか。昔、自分がどれほどすごかったのか。しかも、要点をまとめて話すのが苦手なので、話が長くなり、Fさんには何を言いたいのかわからなくなることもあります。
Fさんが、「それで、何を言いたいの?」と聞くと、「人の話を遮るな!」と罵声が飛んでくるのです。
宅配会社への電話で怒鳴り散らした夫
ある日、宅配便の到着が予定より遅れたことがありました。夫は配送会社に電話をすると、ものすごい剣幕で怒鳴り始めました。電話を切った夫に、Fさんは言いました。
「あなた、自分を何様だと思ってるの?」
夫は平然と答えました。
「俺様」
Fさんは、呆れて言葉も出ませんでした。
夫はまるで、この世は自分を中心に回っていると思っているようでした。
本編では、社員には威圧的に振る舞い、自分より立場が上の人には低姿勢になる夫の二面性と、家庭でも妻を下に置き、「俺様」と言い切るほど自分中心に振る舞うモラハラについてお届けしました。
▶▶「一緒にいて楽しくない。尊敬もできない」65歳妻が、それでも離婚しなかった理由
では、否定的な言葉や不機嫌な態度、見栄や散財にも振り回されてきたFさんが、65歳になって考えたこれからの夫婦関係と、自分の人生の守り方についてお届けします。




