
オトナサローネ編集部では、編集長・井一と小説家の仙田学さんが子供の不登校について親側の悩みを打ち明ける「不登校ラジオ」というライブ配信を始めるなど、育児・教育ジャンルにも力を入れています。
そこで今回、人口増加率全国1位で、子育て世帯が急増中の千葉県・流山市内の小学校にて行われた、教育家・菊池省三先生の飛び込み授業を見学。そこで印象的だったのが、授業が進むにつれ、前のめりになり集中していく子供たちの姿です。
子どもにスイッチを入れていたのは、まぎれもなく、50分の授業の中で何度も、先生が子供たちのふとした瞬間を見逃さず、ほめていた瞬間でした。ある子が褒められ、背筋が伸び、スイッチが入ると、まわりの子どもたちにもその空気が伝染していく。先生はこの「ほめること」の重要性について新刊『足型をはめられた子どもたち』の中で何度も述べています。また、その結果、子どもが変わっていった具体的なエピソードについても紹介しています。
菊池先生が教員時代、クラスに場面かん黙という不安症の女の子がいて、彼女は家では話せたりするのに、学校では当初まったく周囲に反応を示さず、口をきかなかったのだそうです。その子が「ほめ言葉のシャワー」によってこんな風に変わっていったのだそうです。
「その後、彼女は3ヵ月くらいで教室の中で言葉を発するようになりました。
そこまでに私が心がけたのは「教室を心が落ち着く、安心できる場所にする」ということでした。それにはコミュニケーションが欠かせません。
教室では、ふたつの取り組みを地道に続けました。
ひとつは「ほめ言葉のシャワー」です。私の実践で多くの関心をいただいているもののひとつです。帰りのホームルームの時間に日直の子が黒板の前に立ち、クラスメイトがひとりずつ、その日の日直のよかったところをほめます。
ほめられる側の子どもは「あいさつで元気がよかった」などとほめられ、その日の主役になり、クラスメイトから自分の教室での居場所を示してもらえます。一方、ほめる側の子どもたちにも「クラスメイトを観察する目」「発表の言葉の選び方」などが求められ、双方のコミュニケーション力が育まれてきます。」
彼女が参加するようになって3ヵ月目、彼女はほめる側として発言を始めたというのです。最初は相手の名前を呼ぶのが精一杯で、彼女のそばに歩み寄って、やっと聞き取れるくらいの小さな声でした。それに対してお友達が「ほめてくれたのが嬉しかった」と逆にほめ返すようなこともあり、そんなことを繰り返していったのちに、彼女は大きく変わっていったといいます。
「話題のニュースに関して教室内で話し合う授業で、『脱原発が正しいのか』という議題について、自ら挙手をするまでになりました。そして『原発を造ることで、公園の緑が失われる』という意見をみんなに聞こえる声で発言したのです。クラスメイトから大拍手が湧きました。のみならず、話し合いの授業後からは横の席の男の子と話し合う姿も見られました。当時、教室を取材していたNHKの取材にも応じて『最近、学校が楽しい』と答えてくれる一幕もありました。」
「褒める」ということの意味とその実践について、今回は菊池先生に詳しく教えていただきました。
「教師とは褒める仕事である」大事なのは、タイミング・関係性・価値付け

―「ほめ言葉のシャワー」について伺いたいです。本日の飛び込み授業を実際に見ていて、先生が生徒一人一人のちょっとした行動や姿を褒めて認めているのが印象的でした。子どもたちの授業態度も非常に前のめりで、これは嬉しいよな、頑張るよな、と見ていて感じました。「褒める」ときに注意すべきことはありますか?
「明治大学の斎藤孝先生が、大学の教師として自己紹介をする時に『教師という褒める仕事をしています』とおっしゃっていて、深いなあと思いましたね。基本はその子の成長を本気で願って、しっかりと認め、褒めるということがベースなのですが、大切な要素が三つあると思っています。
1つは『タイミング』です。授業の流れの中で、今はつかみの部分でとか、今は何を言ってもいいんだよという学び感を育てるときとか、今はきちっと対話と議論をさせるときとか、場面の目的によって褒め方は変わらないといけない。
もう1つは誰が褒めるかという『関係性』です。関係性が崩れているときに褒めてもうまくいかないことがありますし、何もないときに褒めたことで関係性がつながったというケースもある。本当に難しいんです。良かれと思ったことが逆に出ることもありますから。
そして、褒めるというのは他者との比較ではいけないということです。その個人の変化・変容・成長を褒める。なぜそれがいいのかという価値付けをして、その価値付けした「望ましい状態」を教室の中に浸透させていくんですよね。競争になるということは他者との比較という視点が強いわけですし、望ましい基準がテストの点が100点とかそういったことだけになってしまう。それはやはり怖いことじゃないかと思います」
―中学生になると「褒められるのが嫌な子どもがいる」と訪問先の学校の先生から相談されることがあると聞きました。
「中学校で『褒められるのが嫌なんです』という生徒がいると相談を受けたことがあります。結局、薄っぺらい関係の中で『頑張ってるな、偉いぞ』と言われたってうれしくないから褒められるのが嫌という状態になっているケースが多いと思うんですよ。つまり、薄い人間関係の中での褒める・褒められるということに価値や喜びを見いだせないような生活をしているからではないかな、と。
学校生活なんて、『運動会で頑張ったけどビリになった。それでも応援してくれた』など色々な濃い経験があるので、そこで『褒める・認める・励まし合う』という経験をちゃんとさせることが大事です。そうでないと、大人になって社会に出たときに、その子が一番困るんです。世の中、大人はお互いきちんと褒め合う・認め合うのが社会的な基本的なルールですから。だって職場にそれができない人がいたら嫌ですよね?
大人と子供であっても、人間同士、お互い褒めて認め合うようなフラットな関係はあるべきです。それがなぜ学校だけ『子どもは褒めると調子に乗るから』というような思考になってしまうのか。子どもが『褒められるのが嫌』というもうひとつの理由は、大人側の自尊感情が低くて褒めてもないし褒められてもないから、子どもを褒めるのがうまくできなくてそんなことを言うのではと思ってしまいますね。
それと斎藤先生がよくおっしゃるのは、『褒める人生には2つある。1つは褒められる人生、もう1つは褒める人生。子どもは褒められる人生であり、大人は褒める人生。大人は褒めて喜ぶ・相手が成長するのを喜ぶ、子どもは褒められて喜ぶ。そこが大人と子どもの境界線だ』ということです。私はこれに本当に納得しました。
だから学校の先生は、子ども相手ですから『褒める人生』ですよね。子どもは正当に『褒められる人生』です。だったらなぜしっかり褒めないのかということですよ。
『ほめ言葉のシャワー』は基本子ども同士で褒め合うんですよね。そのために、まず4月5月は先生が褒めて、子ども同士が褒め合ったことはなかなかないですから、お手本を見せるんです。子どもは大人から減点法で評価されるものだと思っていた自分が、友達同士誰からもプラスの言葉で評価し合うのは、大人になれということです。最初はうまくいかないのは当たり前なんです。
学校の先生はこれがいいと言われたらそれだけをやろうとする。手法のハウツーに行きたがる人は、難しいですね」
先生は子どもの成長につながる「褒め方」について、大人に知ってほしいたった一つのコツについてもお話しています。
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