
「最近、急に肌が乾燥してかゆい……」「更年期のせいかもしれない」。更年期には皮膚の乾燥やかゆみが生じやすくなりますが、湿疹が続く場合には、アトピー性皮膚炎を含む皮膚疾患の可能性もあります。
アトピー性皮膚炎は子どもの病気というイメージがありますが、大人になってから初めて発症したり、小児期にいったん落ち着いた症状が再燃したりすることもあります。成人アトピー性皮膚炎患者の約4人に1人が、成人してから発症したと答えたメタ解析もあります。40代・50代女性に特に多い病気というわけではありませんが、更年期には皮膚が乾燥しやすくなるため、これまでなかったかゆみや湿疹には少し注意が必要です。
今回は、大人のアトピー性皮膚炎と更年期にみられる皮膚の変化について、独立行政法人国立病院機構 三重病院の臨床研究部長・長尾みづほ先生に詳しくお話を伺いました。
▶大人になってからアトピー性皮膚炎を発症・再燃することも
幼少期だけではない。大人のアトピー性皮膚炎とは
―アトピーは子どもがなりやすい病気だと思っていました。
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の低下、免疫反応の偏り、遺伝的素因、環境要因などが複雑に関わる病気です。発症は乳幼児期に多いものの、どの年齢でも発症する可能性があります。親にアトピー性皮膚炎があっても子どもが必ず発症するわけではなく、家族歴がなくても発症することがあります。
―アトピーになりやすい属性や性別などはあるのでしょうか。
有病率は年齢、地域、調査方法によって異なります。海外では成人女性の有病率が男性よりやや高いとする報告もありますが、全国のアレルギー疾患医療拠点病院の職員と家族を対象にした日本の横断調査では、現在症状は小児期に最も多く、その後は年齢とともに低下していました。一方で、大人になって初めて発症する人や、いったん軽快した後に再燃する人もいます。40代・50代では、更年期に伴う乾燥など別の皮膚変化も重なりやすいため、『いつもの乾燥』と思い込まず、保湿しても湿疹やかゆみが続く場合は診断を受けることが大切です。
更年期にはエストロゲンの低下や加齢に伴って皮膚が乾燥しやすくなり、角層のセラミド組成が変化することも報告されています。更年期に起こる皮膚の変化とアトピー性皮膚炎の発症・重症化との関係は、まだ研究途上です。ただ、乾燥は皮膚のバリア機能を低下させ、かゆみや湿疹を悪化させる要因になります。これまでと違う肌トラブルが続くときは、スキンケアだけで様子をみ続けず、皮膚科で原因を確かめることが大切です。
小児期のアトピー性皮膚炎が成人期まで続く人も、いったん軽快した後に再燃する人もいます。大切なのは、過去の治療を振り返って原因を探すことより、今の症状や生活への影響に合わせて治療を見直すことです。以前とは治療の選択肢も大きく広がっています。
妊娠中や産後にアトピー性皮膚炎が新たに現れたり、既存の症状が変化したりすることはありますが、経過には個人差があります。産後は、ホルモンや免疫反応の変化に加え、睡眠不足、ストレス、頻回の手洗いなど、複数の要因が皮膚症状に影響し得る時期です。症状を我慢したり治療を自己判断で中断したりせず、医師に相談してください。
▶アトピー性皮膚炎とほかのアレルギー疾患との関係は?
食物アレルギー、喘息、花粉症……。関連はあるが、経過は一人ひとり異なる?
―赤ちゃんの頃は大丈夫でも、大人になって発症するケースもあるのですね。
はい。日本では、乳幼児期から学童期の子どものおよそ10人に1人にアトピー性皮膚炎がみられます。皮膚のバリア機能が低下して刺激が入りやすく、炎症とかゆみが互いに悪化させ合うことが特徴です。
乳幼児期のアトピー性皮膚炎は、その後の食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎の発症リスクと関連します。このように、年齢とともに異なるアレルギー疾患が現れる経過は『アレルギーマーチ』と呼ばれてきました。ただし、すべての人が決まった順序で発症するわけではありません。
アレルギー疾患の経過は一人ひとり異なります。皮膚症状だけで落ち着く人もいれば、複数のアレルギー疾患を併せ持つ人もいます。また、小児期の皮膚症状がいったん軽快した後、成人期に再燃することもあります。
―アレルギーマーチについて、もう少し詳しく教えてください。
特に乳幼児期には、皮膚のバリア機能が低下した部位から食物や環境中のアレルゲンに感作される可能性が指摘されています。
そのため、乳幼児期のアトピー性皮膚炎は、後の食物アレルギーや喘息、アレルギー性鼻炎のリスク因子の一つと考えられています。ただし、関連には遺伝的素因や環境要因なども関わり、アトピー性皮膚炎だけが原因というわけではありません。
アトピー性皮膚炎はアレルギー疾患の中で早期に現れることが多い一方、典型的なアレルギーマーチをたどるのは一部です。英国の出生コホートを用いた解析では、アトピー性皮膚炎に続いて喘鳴・鼻炎が現れる典型的な経過は、対象集団の約3%でした。成人期の治療でまず目指すのは、今ある皮膚症状とかゆみを抑え、再燃を減らし、生活の質を守ることです。将来のアレルギーを心配しすぎるより、皮膚を良い状態に保つことを大切にしましょう。
つづき▶▶「ステロイドは怖い」は本当? ここまで変わったアトピー性皮膚炎治療と、正しい外用薬の使い方
お話を伺った先生:長尾みづほ先生

独立行政法人国立病院機構 三重病院 臨床研究部 臨床研究部長。医学博士。日本小児科学会専門医、日本アレルギー学会専門医・指導医。1997年岐阜大学医学部卒業。同年岐阜大学小児科に入局し、2002年に大学院を卒業。アレルギー専門医として日々臨床や研究に取り組む。




