
オトナサローネでエッセイ『シングルファーザー小説家の子育てと社会日記』を連載中の作家・仙田学さんと、オトナサローネ編集部井一が、7月17日にインスタライブで「不登校ラジオ#2」を配信しました。
前編記事『不登校の子どもの「高校進学」意外な現状とは?早めに知っておいたほうがいいことは』に続く後編です。
【不登校ラジオ・ダイジェスト】#2 後編
子どもが「ぎりぎり越えられる高さ」のハードルは親が用意してあげてほしい
井一:人としての最低限のありかたを教育するということはそれはそれで、不登校になったからといって変えなくてもいいということですかね。
仙田:その子どもの数だけ正論はあるのかなと思っています。もうひとつ、今、井一さんのお嬢さんは多分、エネルギーを蓄えている、冬眠している時期かなと思うんです。冬眠から覚めてきた頃に、大きいハードルじゃなくて小さいハードルを用意してあげて、これ超えてみないかと誘って、もしコケてしまったら次はそのハードルを見せない、という感じで探り探りハードルを用意するのが必要かなと思っています。
井一:それは例えば、外に出るのが嫌な子にちょっとコンビニ行こうというような?
仙田:例えばうちの子は今でも睡眠時間は12時間ぐらいで、夜の11時から昼の11時ぐらいまで寝ています。午前中に用事がある時、9時に家を出ないといけない時は8時に起こします。本人は結構無理して3時間早く起きるわけです。それがハードルで、起きなかったらその用事は今日は行かなくていい、と落とします。ただ、本人が行きたくなくて起きてこないんだったら、突っ張らずに落とした方がいいのかなという気がします。
井一:私はそこで怒ってしまいますね。「なんで予約したのに行かないの!」って。
仙田:中2というのはすごく難しいと思うんです。保育園児や小学校低学年の頃は、大人が子どもにインストールしていかなきゃいけない教えがたくさんある。でもいつからか子どもが大人になっていって、全く別の人格として生きていくわけですよね。どこまで親が教えるべきで、どこから本人の自由に任せるべきか、中2はすごく難しいと思います。ルールを教えた方がいい時もあるし、一人の人間の意思として尊重してあげられる時もあるという、そこをどう選択するかということかなと。
井一:小5くらいならもう少し「昼間は縦になろうか」「パジャマは着替えようか」というような、基礎的な生活態度への介入が必要な段階もあるけれど、中学になってくると自主性を信頼して本人の判断に任せる、ということですかね。仙田さんのお嬢さんは、ご自身の意思表示というのは割とある方だったんですか? それとも自分の気持ちを話しにくい感じだったんですか?
仙田:今回の連載で書いたように、長女は本当に自分の意思表示をしない、できない子だったので、そこはいちばん苦労しました。意思を尊重しようにもその意思がわからないという状態が長く続いたので、不登校になってからもどう接するのがこの子のためになるのかは、最初は全くわかりませんでした。
井一:意思を聞くとき、聞き出しているのか、感じ取っているのか、どちらですか?
仙田:あまりこちらから聞くということはしないですね。向こうから話してくれるのを待つという感じでした。ずっと眠って起きてこなかった10ヶ月ぐらいの時に、外に連れ出す、温泉、映画、外食、カラオケなどに一緒に行くということを重ねて、学校に行ってなくても楽しい人生を楽しんでいいんだよ、楽しいことがいっぱいあるよ、というのは伝えるようにしていました。
不登校が始まってちょうど1年ぐらい経った頃、1月の僕の誕生日に手紙をくれて、そこで初めて将来こういうことがやりたいということをはっきり長い文章で伝えてくれました。13歳になってちょっとぐらいの頃です。その日からだいぶ長女が変わって、思っていることを何でも話すようになりました。ですが、何が原因でこの覚醒が起きたのかはいまでもよくわかりません。
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心穏やかに待つためには、親の側が自分の意識を「子どもから剥がす」必要がある
井一:子どもがエネルギーを溜めている時間を信じてひたすら待つというのがうまくはまって、お子さんがエネルギーを十分溜められた、いっぱいになったから次のステップに進みたいという意思がついていった、ということなんですかね。
現状は心理学的にもこの、本人の意思が満ちるまで待つ、見守ることが不登校に対する態度の正解であるようです。いや、人生に決して正解や不正解があるわけではないのですが、しかし我々はやはり方法論としての正解があるのではないかと思ってしまうのです。
仙田:大人になっても何もしたくない時、ちょっとうつっぽくなる時、ずっと寝ていたい日ってありますよね。。思い切って怠惰になって、ずっと一日寝るとか、そういう生活を何日か続けているとだんだん飽きてきて、たまには仕事でもしたいなとなってくる。子どもだけでなく、そういう人間の心の動きとしては自然なことなのかもしれません。
井一:いま、「仙田さんがどうしてそこまで穏やかに待てるのか不思議です。なんでできないのかという怒りが湧いてしまうことはないのでしょうか」とコメントをいただきました。私も本当にこれは思います。
仙田:ないこともないですが、非常に微弱です。子どもに関しては生まれた瞬間から可愛いとしか思ったことがないので。いちばん波があったのは保育園の頃で、自分で靴を履いて歩いて、荷物を片付けてという、赤ちゃん状態からちょっと人になりかけた頃に、こちらの期待することと子どものできることがかみあわない時期はイライラすることが多かったです。
でも、実際に怒ってしまうと、後でものすごく嫌な思いするじゃないですか、なんであんなこと言ってしまったのだと。僕は子どもに限らず、誰かに対してイラッとするその負の感情が嫌いなんです。 人生には限られた時間しかないのに、こんな負の感情を持っている時間がもったいないなと思って、その負の感情自体を無視するようにしています。
だから子どもに対してイラッとなりかけたら、その感情に目を向けないようにして、違うことに目を向ける。 例えば今、子どもたちが食事やお風呂にものすごく時間をかけます。 お風呂2時間、食事1時間半みたいに。でも、無理やり短縮させても誰も嬉しくないから、 僕はもうその気持ちに目を向けないようにして、そのその時間違うことをするようにしてるんです。
井一:なるほど、自分の意識自体を子どもから無理にでも「剥がす」のですね。それはちょっと応用できる気がしました。思えば、ご飯を終わらせてくれないと洗い物が終わらない、洗い物が終わらないと私がお風呂に入れないと、私の時間を侵害されているから腹が立つんですね。
仙田:なので僕は子どもが寝て寝た後に仕事をすることに決めているのですが、その時間を前倒ししてパズルみたいに入れ替えます。時間を奪われた時にはこっちの時間をそっちに持っていくのです。
井一:自分の気持ちを波立たせないために、家事の順番を組み替えることで子どもに対してイラッとしないようにしている、これは究極の自分ファーストでもありますね。
仙田:道を歩いていても、あんまり近寄りたくない人がいたら離れるじゃないですか。それと一緒で、子どもに対してだけじゃなくて、僕は多分誰に対してもそうしてると思います。話し合ったら分かり合えそうな場合はもちろん話し合ったり、ぶつかったりするけど、変えられなさそうな場合はその問題から離れる。
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「今日は前髪かわいいね」くらいの小さなことから子どもをほめて過ごす
井一:家族ではあるけれども、別の人格を持っている他の人間だから、道理としてならぬことは介入しなきゃいけないけど、それ以外は親が自分の気持ちを整える練習をする方が、もしかして不登校全体にとっていいことがあるかもしれないということですね。 少なくとも自分の気持ちは波立たないですもんね。子どもであっても他人、変えられないものがある。 子どもから意識を剥がす。親が 負の感情から離れるということですよね。
子どもがレールから脱落したことをなかなか受け入れられないので、やっぱり学校に戻ってほしいなと思ってしまう、なので本当に子どもに対して見守る姿勢でいいのだろうか、本来はもっと高度に介入しなきゃいけないんじゃないだろうかと疑いも実は持っています。でも、仙田さんご自分が不登校を体験した立場からして、子どもが自分で歩き出すまで、親は横でハラハラしながら見守っていてよいんだよと断言できるということですよね。
仙田:そうですね。ずっと起きてこない、何もできない時期というのは、すごく心のエネルギーが不足しているということでもあるし、自己肯定感が下がっているということもあると思うんですよね。だから僕が意識して介入していたのは、肯定するということでした。例えば起きてきた時に「よく寝れたみたいだね、顔すっきりしてる」、実際は夕方なんですが(笑)。あるいは、お絵描きが好きなのでイラストを描いていたら「可愛いね」とか。とにかく何でもポジティブなフィードバックをなるべく細かく、大きく言わなくてもいいから。
井一:今日前髪可愛いね、くらいのレベルから。
仙田:うん、そうですね。そのくらいの小さいこと。
井一:これはちょっと頑張ってみようと思えるお話を最後にいただきました。この世界に絶対的な正解があるわけではなく、教育学的・心理学的にこのあたりがよいだろうというのはあっても、学術的正解が子どもの将来に責任を取ってくれるわけでもありません。なるべく確からしい、よさそうな方に、みんなで知恵を出し合いながら少しずつ進んでいく。こうした当事者の知恵というのはすごいものだなと日々思います。
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前編>>不登校の子どもの「高校進学」意外な現状とは?早めに知っておいたほうがいいことは
仙田さんの連載#4『不登校の娘のこれまでを振り返る。「自己主張をしない育てやすい子」が5歳で突如として「癇癪を起す」ようになった。もしかして』
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