
モラハラ・夫婦問題カウンセラーの麻野祐香です。働く女性は、モラハラやDVをする夫から簡単に逃げられるのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。さまざまな事情から、支配的な配偶者との結婚生活を続けている方は少なくありません。オトナサローネ世代のモラハラ被害にフォーカスした本連載。今回は、夫に何を伝えても届かない――そんな苦しさを抱えながら暮らしてきた、Aさんのお話です。
※本記事は、相談者様への敬意と守秘義務に十分配慮したうえで、モデルケースとして編集・再構成しお届けしています。特定の人物や事例を示すものではありません。
※写真はイメージです
「優しいカレ」は、結婚して半年で、立派なモラハラ夫になった
Aさんの夫は、外では気が利いて感じのいい人だと思われています。近所の人や共通の友人の前では穏やかで、子どものこともよく気にかける、家庭思いの夫に見えていました。
「あんなに優しいご主人で、うらやましい」
そう言われるたびに、Aさんは曖昧に笑うことしかできませんでした。実はAさん自身も、結婚するまでは夫を本当に優しい人だと思っていたのです。話を最後まできちんと聞いてくれ、いつも大切にしてくれる。こんな人なら、この先も幸せな家庭を築いていけると信じて結婚しました。ところが、結婚してから夫の態度は少しずつ変わり始めました。
最初は、
「今日は疲れているのかな」
「少し口調がきついだけかもしれない」
と思う程度でした。
しかし、結婚して半年ほど経つ頃には、Aさんが自分の考えを伝えるだけで、夫は否定するようになっていたのです。ある日、これからの生活について相談をしたいと思ったAさんは夫に声をかけました。「今、少し話してもいい?」
しかし夫はスマホゲームから顔も上げず「今、忙しい」と言うだけ。「大事な話なの」Aさんがそう伝えると、夫は面倒くさそうにため息をつき、「バカのくせに、俺様に話しかけるんじゃない」と言い放ちました。耳を疑うような言葉でした。
それから夫は、Aさんに向かって、ことあるごとに「バカだ」「役立たずだ」と言うようになりました。見下すような目でAさんを見つめ、少しでも反論すると怒鳴ります。夫に逆らっても、返ってくるのはさらにひどい言葉だけです。怖くなったAさんは、少しずつ黙るようになり、気づいたときには、家の中で自分の意見をほとんど言わなくなっていました。……いいえ、言えなくなっていたのです。
ぐずる子供を抱いていたら、蹴られて…
ある休日の午後のこと。子どもがぐずり、泣き始めました。小さな子どものいる家庭では、よくある、ごくありふれた光景です。けれど、その泣き声を聞いた夫の表情は、すっと冷淡なものに変わりました。「うるさい。早く泣き止ませろよ」
Aさんは子どもを抱っこしてあやしながら、思い切って言いました。
「パパも抱っこしてあげて」
たった、それだけの言葉でした。しかし返ってきたのは、
「お前の仕事だろ。お前がやれよ」
という冷たいひと言でした。
Aさんは「やっぱり、この人はこういう人なんだ」と落胆し、小さな声で、「もういいわ」とつぶやきました。その瞬間、夫が怒鳴りました。
「何だ、その態度は!」
そして、あろうことか、子どもを抱いているAさんの足を強く蹴ったのです。
夫は玄関のドアを乱暴に閉め、そのまま黙って家を出て行きました。残されたAさんは、泣き続ける子どもを抱えたまま、しばらく動くことができませんでした。蹴られた足の痛みに耐えながら子どもをあやしているうちに、涙があふれて止まりませんでした。
子どもが泣くのは、当たり前のことです。夫に手伝ってほしいと頼むことも、決しておかしなことではありません。それなのに、なぜ自分は蹴られなければならなかったのか。悔しさと悲しさが、Aさんの頭の中をぐるぐると巡っていました。
論点のすり替え、論破もどきは、よく使われる技
Aさんの夫には、いつも同じパターンがありました。Aさんから少し指摘されただけで、その何倍もの言葉を返してくる。すぐに不機嫌になり、その空気で家じゅうを支配する。そして、決して自分の非を認めはしない。
分が悪くなると、「俺が悪いのか?」「俺のせいだっていうのか?」と、責め返してくるのです。これは、モラハラでよく見られる「論点のすり替え」です。本来、話し合うべきなのは「夫が何をしたのか」ということです。ところが夫は、「そんなことを言うAさんの態度が悪い」という話にすり替えてしまいます。
何を話しても、最後は「お前の言い方が悪い」「お前の態度が気に入らない」という結論になってしまうのです。こうした論点のすり替えは、話し合う気力そのものを奪っていきます。
本編では、優しかったはずの彼と結婚して半年で「バカ」呼ばわりされるようになり、蹴られたAさんのお話をお伝えしました。▶▶蹴られても誰にも言えなかった。「夫婦なんて、そんなもの」自分にかけていた呪いを断ち切った日。友人に真実を打ち明け、一歩前に踏み出した私は
では、友人のひと言で「自分は悪くなかった」と気づき始めたAさんが、自分と子どもを守るために踏み出した第一歩をご紹介します。




