「やせていること」は本当に健康なのか?「FUS」と「ボディイメージ教育」から考える女性の健康 | NewsCafe

「やせていること」は本当に健康なのか?「FUS」と「ボディイメージ教育」から考える女性の健康

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「やせていること」は本当に健康なのか?「FUS」と「ボディイメージ教育」から考える女性の健康

2004年アテネオリンピック女子ハンマー投に出場した室伏由佳先生。現在は順天堂大学スポーツ健康科学部に属し、スポーツ医学、アンチ・ドーピング、スポーツ心理学、女性の健康課題に関する研究・教育に取り組んでいます。

近年では内閣府SIP「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」にも携わり、その社会的ムーブメントを推進する「マイウェルボディ協議会」*1の副代表幹事として、女性が自分らしく健康な身体を選択できる社会づくりを推進しています。

中でも室伏先生が啓発に力を入れているのが「FUS」。耳慣れない言葉ですが、どのような内容なのでしょうか。

TOP写真/©海老澤芳辰 リンガフランカ

FUSとは何か?「やせていると健康的」という思い込みを見直す新しい視点

日本では長年、若い女性の「やせ」が健康課題となっています。体重や見た目に対する関心は個人の問題として扱われがちですが、その背景には、「やせている方が美しい」「細い方が健康的」といった社会的な価値観が横たわります。さらにはSNS上で繰り返し目にする理想体型、外見で人を評価するルッキズムなどとも関連が。こうした課題を、医学・教育・社会の視点から捉え直す概念として注目されているのが、FUS(ファス)です。

――まず、FUSとはどのような概念なのでしょうか。

室伏「FUSとは、『女性の低体重・低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome)』の略です。日本肥満学会が関連学会と協同して設置したワーキンググループにより、2025年4月にFUSに関するステートメント*2が公表されました。

FUSは、低体重や低栄養を背景に、月経、骨、筋肉量、代謝、精神面・身体面の不調などが複合的に関わる健康課題として提唱された新しい概念です。単に『食事量が少ない人』だけを指すものではなく、体質、生活習慣、心理的要因、社会的な価値観など、さまざまな背景を含めて考える必要があります。

これまで日本では、肥満やメタボリックシンドロームへの対策が大きく取り上げられてきました。一方で、やせていることや低栄養の状態も、健康に影響を及ぼすことが近年あらためて注目されています。特に日本では、『やせていることは健康的である』『細い方がよい』という価値観が根強くあります。そのため、自分の不調が低体重や低栄養と関係している可能性に気づきにくい場合があります。まずは、やせも健康課題になり得るという視点を持つことが大切だと思います

――FUSを考えるうえでは、体重やBMIの数値だけでなく、身体の機能面も見る必要があるのですね。 

室伏「BMIはわかりやすい指標ですが、それだけで健康状態のすべてがわかるわけではありません。FUSで重要なのは、低体重や低栄養を背景に、身体にどのような影響が出ているのかを総合的に見ることです。

たとえば、疲れやすい、冷えやすい、月経が不安定になる、筋肉量が少ない、貧血が疑われる、骨の健康に影響が出るといったことがあります。ですので、単に“体重が軽いかどうか”ではなく、身体がきちんと機能しているか、自分の生活を健康に維持できているかという視点が必要です

――低体重や低栄養の影響は、現在の体調だけでなく、将来の健康にも関わるのですね。特に思春期から若年期は、骨量や筋肉量を獲得し、月経を含めた身体機能が整っていく重要な時期でもあります。

室伏「骨密度は、18歳頃までがとても重要な獲得期です。10代のうちに“一生分の骨の貯蓄”をして、その後の人生で少しずつ使っていくようなイメージです。骨密度をしっかり高めるためには、適切な運動と十分な栄養の両方が必要です。

ところが、この時期に極端なダイエットや偏った食事を続けたり、運動をまったくしなかったり、一方で、運動はしているのに必要な栄養を摂らなかったりすると、骨をつくるために必要な刺激や材料が不足してしまいます。その結果、本来獲得できるはずだった骨密度を十分に高められない可能性があります。

また、低体重や低栄養によって筋肉量が十分に保たれないことは、将来的な代謝機能にも関わります。若い時期のやせや低栄養は、見た目や体重の問題にとどまらず、骨や筋肉、さらには耐糖能異常や将来的な糖尿病リスクに関わる代謝の健康にも影響するという視点を持つことが大切です

――だからこそ、FUSは単に「やせている人」の問題ではなく、自分の身体をどう理解し、健康をどう守るかという問題でもあるのですね。

室伏「そうですね。若い頃のやせや低栄養が、現在の不調や健康課題と関係していたかもしれないと気づく人もいると思います。メタボリックシンドロームという考え方が広がったことで、多くの人が肥満や生活習慣病に注意を向けるようになりました。それと同じように、FUSという視点を持つことで、やせや低栄養による健康課題にも気づきやすくなると思います。

特に大切なのは、体重の数字だけでなく、身体の機能性を見ることです。筋肉量、体力、月経の状態、疲労感、日常生活のしやすさなど、自分の身体が健康に働いているかを確認することが必要です。やせているから健康なのではなく、自分の身体がその人らしく健やかに機能しているかを見ていくことが大切だと思います

スポーツ科学の視点。「体重だけでなく、身体の機能を見る」ことでわかってくるものは

室伏先生が日々接している学生の中には、競技スポーツに取り組んでいる方も多くいると思います。アスリートは、競技力を高めるために、食事、運動、休養、コンディションの関係を日常的に意識する機会があります。こうしたスポーツ科学の視点は、アスリートだけでなく、一般の人が自分の身体を健康に保つうえでも重要な手がかりになります。

――スポーツ科学の視点は、若い女性のやせや低栄養を考えるうえでも役立つのでしょうか。

室伏「スポーツをしている学生たちは、運動量や練習内容に応じて、何を、いつ、どのくらい食べるかを考える機会があります。もちろん全員が完璧にできているわけではありませんが、身体を動かすことで、自分のコンディションと食事の関係に気づきやすくなります。

たとえば、十分に食べられていないと疲労が残りやすい、筋肉がつきにくい、練習の質が下がるといったことを、自分の身体を通じて感じることがあります。こうした身体の声を聞く視点は、アスリートに限らず、健康教育の中でも大切だと思います

――FUSの予防を考えるうえでも、単に「体重を増やす」「食べる量を増やす」ということではなく、身体がどのように機能しているかを見る視点が重要なのですね。

室伏「体重の数字だけを見ると、減ったか増えたかに意識が向きやすくなります。しかし、本当に大切なのは、その身体で健康に生活できているか、必要な活動ができているかということです。

筋肉量が十分にあるか、疲れやすくないか、冷えやすくないか、月経が安定しているか、運動したあとにきちんと回復できているか。そうした身体の機能を見ていく必要があります。スポーツ科学では、体重だけでなく体組成やコンディションを含めて身体を捉えます。その考え方は、若い女性のやせや低栄養を考えるうえでも役立つと思います

 

―― 一方で、知識を持っていても、それを日々の行動につなげることは簡単ではありませんね。日常の中で自然に学び、実践できる環境も必要になりそうです。

室伏「競技スポーツに取り組む人は、“試合で力を出したい”“練習の質を上げたい”という目的があるので、食事や休養を意識しやすい面があります。一方で、明確な目的がないと、健康のために行動を続けるのはなかなか難しいものです。

だからこそ、体重を減らすことだけを目標にするのではなく、自分の身体をよく知り、心地よく動ける、疲れにくい、日常生活を前向きに送れるといった実感につなげていくことが大切です。食事、運動、休養をばらばらに考えるのではなく、自分の身体を支えるものとして組み合わせて学ぶ機会が、もっと日常の中に必要だと思います

体重やBMIなど「わかりやすい数字」だけで身体を評価せず、健康的に機能しているかどうかに着目を

健康や美容のために身体を変えたいと考える人は少なくありません。しかし、体重やBMIの数字だけを目標にすると、極端な食事制限や過度な運動、不適切な薬剤使用など、かえって健康を損なう行動につながることがあります。

――体重やBMIはわかりやすい指標である一方、それだけで身体を評価することには限界があるのでしょうか。

室伏「BMIは集団の傾向を見るうえでは有用な指標ですが、それだけで一人ひとりの身体の状態を十分に判断できるわけではありません。たとえば、筋肉量や体脂肪率、栄養状態、月経の状態、疲労感などは、体重の数字だけでは見えてきません。

目先の数字を減らすことだけを目標にすると、極端な食事制限や過度な運動に向かってしまうことがあります。でも、本来大切なのは、体重を短期間で変えることではなく、自分の身体が健康に機能しているかどうかです。維持可能な形で、食事、運動、休養を整えていく視点が必要だと思います

――近年は、医療用の糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬を、医学的な必要性とは異なる痩身目的で使用するケースも問題になっています。この背景には、「早くやせたい」「数字を変えたい」という焦りや、やせていることをよいものとする社会的な価値観もあるのでしょうか。

室伏「GLP-1受容体作動薬は、本来、医師の診断と管理のもとで必要な人に使われる医療用の薬です。それを、十分な医学的評価や管理がないまま、痩身目的で使うことには大きなリスクがあります。

日本国内でも、学生がアルバイト代を使ってこうした薬を手に入れ、やせようとしているケースが報道されています。苦労して働いて得たお金を、自分の健康を損なう可能性のある方法に使ってしまうのは、本末転倒です。

ただ、本人が不真面目なのではなく、むしろまじめで努力家の人ほど、“早く結果を出したい”“もっとやせなければいけない”と思い込み、健康を損なう方向に努力してしまうことがあります。だからこそ、過度なやせが健康に影響を及ぼすこと、そして身体を短期間で無理に変えようとすることの危うさを、教育の中で伝えていく必要があります

つづき>>>体重や見た目に振り回されないためにできることをいま考えたい。思春期から育てたい「自分の身体を大切にする力」

お話/室伏由佳先生

順天堂大学スポーツ健康科学部/順天堂大学スポーツ健康科学研究科 先任准教授、スポーツ健康科学博士。1977年静岡県生まれ。1999年中京大学体育学部体育学科卒業、ミズノ株式会社入社。2016年株式会社attainment設立。2019年順天堂大学スポーツ健康科学研究科博士後期課程修了(博士号取得)。主な研究テーマは、スポーツ医学アンチ・ドーピング、スポーツ心理学、女性の健康課題。2004年アテネオリンピック 女子ハンマー投 日本代表。陸上競技女子円盤投、ハンマー投の元日本記録保持者。世界陸上競技選手権 2005年 ヘルシンキ大会女子ハンマー投日本代表など代表歴も多数。現在はアンチ・ドーピング教育、スポーツ心理学、女性の健康課題等を専門とする。マイウェルボディ協議会 副代表幹事、株式会社attainment 代表取締役。

研究ラボHP:Sports Medicine Anti-Doping Laboratory https://y-murofushi-lab.jp


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