戦争で家族を失い、社会からこぼれ落ちた子どもたち。
当時、街には進駐軍相手の慰安施設や路上売春が広がり、低年齢の少女たちまでもが性的搾取の危機に晒されていた。その現実から逃れるため、自らの性別を隠し、“少年として生きる”ことを選んだ少女がいた。
本作は、“生まれながらのアウトロー”ではなく、どこにでもいたはずの1人の少女が、戦争によって変わっていく物語。
主人公・琴子は、音楽家の父のもとで、普通の暮らしをしていた少女。しかし戦争と敗戦によってすべてを失い、「生きるために、自分自身を手放す」という選択を迫られる。
一方、曽根は、かつて教師として軍国主義教育に加担していた側だったが、敗戦とともに信じていたものも立場もすべてを失っていく。生徒を棄て、自らの生き方さえも手放しながら、それでもなお、今日という1日を生き延びていく。過去に背負ったものと、抗うことのできない現実のあいだで揺れながら、加害でも被害でも割り切れない、その両方を抱えたまま、生きるしかない過酷な運命を辿っていく。
琴子は、少女を隠し“少年”としてどこへ向かうのか。曽根は、再び人として立ち上がれるのか。
『すばらしき世界』の源流から生まれた、新しい視点から描かれる“戦後”
西川監督が前作『すばらしき世界』の制作過程で出会った、戦後の日本に実在した“知られなかった子どもたち”の存在。前作の原案となった「身分帳」(佐木隆三)に登場する主人公は、母に捨てられ、戦後の混乱の中で孤児として街を彷徨い、進駐軍の靴磨きや新聞売りで糊口をしのぎながら、やがて裏社会に取り込まれていく1人の男の人生が描かれていた。
広島県・広島市に生まれた西川監督にとって、「戦争」や「平和」は幼少期からの教育を通じてあまりに身近で、キャリアの初期にも、その重々しいテーマから逃れていたい気持ちもあったとふり返っていた。しかし、前作で出会ってしまった戦後に生きていた子どもたちの過酷な現実は、監督の心を激しく揺さぶった。「子どもたちを取り巻いた戦後の裏社会の物語をいつかもう一度作り直したい」――その抗いようのない衝動に駆られ、本作の企画は動き出した。
大抜擢の新星×二階堂ふみ、さらに実力派キャストが集結
主人公・琴子役に抜擢されたのは、約500人のオーディションの中から選ばれた、当時11歳・小学校5年生の小八重葵美。
そして女性教師・曽根役には、2025年開催の第78回カンヌ国際映画祭において出演映画『遠い山なみの光』が「ある視点」部門に正式出品され、大きな注目を集め国際的評価を確立している二階堂ふみ。
近年では、エミー賞をはじめ世界的な賞レースで高い評価を受けた「SHOGUN 将軍」に出演し世界配信作品の中核キャストとして国際的な認知を獲得するなど、国内外の作家性の高い作品において確かな評価を積み重ねてきた。さらに、数々の主演作・受賞歴を持ち、日本映画界を牽引してきた竹野内豊、音楽・映像の両分野で活躍し、若年層からの支持を集める次世代俳優・櫻井海音、そして国内映画祭での評価も高い若手実力派・花瀬琴音が脇を固める。
また、子どもたちのキャストには、徹底したリアリティを追求。戦争の記憶に触れる機会も少ない彼らに対し、計3回の歴史・生活に関する勉強会を実施しながら丁寧に制作。単なる演技指導ではなく、当時の価値観や感情に対する理解を深めた上で撮影に臨んでいる。『国宝』『ゴジラ-1.0』――日本映画最高峰のスタッフが集結
本作には、国内外で受賞歴を持つトップクリエイターが集結した。
音楽を手がけるのは原摩利彦。映画『国宝』において数々の音楽賞を受賞し、坂本龍一からもその音響設計・空間構築において高い評価を受けた実力派の作曲家。クラシック、現代音楽、環境音を横断するその表現は、単なる劇伴の枠を超え、“物語のもう一つの語り手”として機能する音楽として国内外から注目されている。
また、本作では、音楽収録をイタリア・ローマで実施。原は「イタリアの指揮者や奏者が真剣に映画や音楽に向き合ってくださる驚きと演奏を通しての気づきがあった」と手応えを感じている。
また同席した西川監督も「音楽的な歴史の厚みを感じる演奏」と大絶賛。日本・イタリアと国を超えた共同作業がもたらす化学反応が堪能できる。
さらに、本作で原摩利彦は映画初出演を果たし、音楽家役として重要な役としてカメオ出演している。
そして、1945年の街並みを再現するためにVFXを担当したのは映画『ゴジラ-1.0』で第96回アカデミー賞視覚効果賞を受賞した白組チームが担当。
ハリウッド大作を抑えての受賞という快挙により、日本のVFX技術が世界水準であることを証明した彼らが、本作では戦後直後の日本を再構築する。瓦礫の街、焼け跡の空気、人々の密度――単なる背景ではなく、時代そのものが登場人物として立ち上がる映像表現が実現される。
今回の特報では、東京に広がっていた闇市や焼け野原など一部そのスケールを体感できる。
ティザービジュアルの撮影を担当したのは、アジアを中心に注目を集める写真家、レスリー・チャン。
ウォン・カーウァイ作品に影響を受けた色彩感覚と、人物の内面を切り取る繊細な視線で知られる彼が、本作で初めて映画ポスターの写真を担当し、“語られない感情”を1枚の写真に封じ込めた。
写し出されるのは、「少女」を棄て少年として生きると決意し見つめる琴子の意志と、生徒を棄て何かを失ってしまった曽根の空虚な姿。
コピーには、「12歳。私は「少女」を棄てました」「私は生徒を棄てました」というそれぞれに置かれた現実を表す言葉がひかれ、2人の人物が辿る途方もない選択と、その重みが浮かび上がる。デザインを担当したのは吉良進太郎。作品の核心を鋭くすくい上げている。
特報では、戦後の混乱の中、少女を棄て、少年として生きることを選んだ琴子と、かつて棄てた生徒を探し続ける女性教師・曽根の姿が交錯する。VFXでリアルに表現される1945年の焼け跡の街。行き交う人々。言葉にならないまま積み重なる時間。「もし自分がその時代に生きていたら何を選んだのか」という問いを、いまを生きる私たちに静かに投げかける映像となった。
キャスト、スタッフからコメント到着
小八重葵美(茅野琴子役)
この映画の主演が決まったと聞いたときは、とても驚きました。すぐには信じられなくて「夢なんじゃないか」と思いました。でも、時間がたつにつれ、「自分に主演が務まるのかな」と不安になることもありました。作品の中心として、たくさんの人に影響を与える立場だと実感したからです。だからこそ、一つ一つのお芝居にしっかり向き合い、より良い作品にしたいと思いました。この作品に関われることに感謝しながら、精一杯頑張ろうと強く思いました!西川美和監督と一緒に映画制作に取り組む中で、楽しい気持ちや新しいことに挑戦できる嬉しさをたくさん感じました。スタッフさんや共演者さん、家族にたくさん支えてもらい、相談に乗ってもらえたおかげで心が軽くなって、お芝居や人と接することがどんどん楽しくなりました。
この作品は戦争や戦後がテーマで、関わる中で当時の人々の苦しみや悲しみについて深く考えるようになりました。
資料館や原爆ドームを見学した時、平和が当たり前ではないということを実感しました。今も世界のどこかで戦争が起きていて、戦争を軽い気持ちで見てはいけないと思いました。私は、戦争を経験していないからこそ、「もし家族がこうなったらどう思うんだろう」と色々なことを深く考えて、琴子という役を大切に演じました。
この経験を通して、これからも歴史を学び続け、自分にできることを考えていきたいです。
二階堂ふみ(曽根文美子役)
西川監督とは、脚本執筆中にお話を伺ったことが最初の出会いで、完成した脚本を読んだとき、戦後という価値観が一変した時代を“子どもの視点”から描く、その新しい語り口に強く心を動かされました。子どもたちが戦後にあったさまざまな過酷な現実を頭で理解するのではなく、そのまま受け止めながら生きていく姿が描かれていて、胸が締めつけられる思いがしました。撮影現場では西川監督と丁寧に対話を重ねながら、登場人物が抱える矛盾や葛藤、そして“被害者でもあり加害者でもある”という人間の複雑さに向き合い続けました。
琴子を演じた小八重さんは、初めて会ったときからまっすぐな眼差しが印象的で、その純粋さに何度もハッとさせられました。撮影を重ねるごとに表情や佇まいが変化していく姿から、役と真摯に向き合い、その時代を生きていることが強く伝わってきて、心を大きく揺さぶられました。
本作は、戦争を過去の出来事としてではなく、いま私たちが向き合うべき問題として感じさせてくれる作品です。子どもにも大人にも、それぞれの立場でこの物語を受け止めていただけたら嬉しいです。
竹野内豊(琴子の父:茅野孝一役)
西川監督の演出はとても細やかで、時間をかけて丁寧に作品づくりに向き合われている印象を受けました。もっと長く撮影していたいと思うほど素晴らしい現場でしたので、わずかな撮影時間でしたが、心地よい空気に支えられながらシーンに向き合うことができました。脚本は読み進めるほどに胸が締めつけられるような思いになりました。幼い子どもたちが、限られた選択肢の中で必死に生き抜こうとする姿に、言いようのない切なさが押し寄せ、また大人たちも自分のことで精一杯の人もいれば、救いの手を差し伸べる人もいて、誰もが明日生きていられるかわからない日々の中、どの道を選ぶことが正解なのかは、どんなに考えても答えがみつかりません。
西川監督が長い時間をかけて紡いだ物語は、限りなくノンフィクションに近い映像として、多くの人々の心に深く刺さる映画になるのではないかと思います。琴子を演じた小八重さんは、難しい役に真摯に向き合いながらも少しずつ変化していく姿がとても印象的で、これからの成長を楽しみに感じております。
本作は、戦時下の側面において当時の民間人がどのような思いで懸命に生きていたのか、教科書では知ることのできない現実をリアルに伝えてくれるものだと思います。これからは今まで以上に一人一人の意識や力が未来へと影響する時代が来ると思いますので、一人でも多くの人々にご覧いただけたら幸いです。
櫻井海音(琴子の兄:茅野律朗役)
台本を読ませていただいた際に、今この時代だからこそ意義のある作品だと強く感じました。そんな作品に参加させていただいたこと、強く幸せを感じています。争いの絶えない世の中で自分自身が出来ることは何なのか、きっと答えは無いし、半径数メートルの世界でしか自分はまだ生きられていないです。ただこの作品を通して、少しでもそういった社会を考えたり、気にしたり、日常に溢れるニュースが人ごとではないと感じるようになりました。そんなことが観てくださった方々にも伝わればいいなと思っています。今回初めて西川美和監督とご一緒させていただきましたが、西川監督の持つ作品への愛情と熱量を常に感じていました。バイオリンの練習に来てくださり、現場でも丁寧にシーンを説明していただき、役者として非常に大きな経験になりました。是非多くの方に観ていただきたいです。
音楽・原摩利彦
『わたしの知らない子どもたち』の音楽を書き始めて、2年以上が経ちます。これほど長くひとつの映画音楽を書き続けたことはありません。西川美和監督より映画の構想を伺ってすぐに、あるモチーフを思いつきました。まだ脚本も届いていない頃に書いたそのモチーフが、この映画のメインテーマになりました。監督の強い思いに心を動かされたのだと思います。その後、主人公・琴子の心の奥底にあるものはどういうものだろうかと考えながら、作曲を進めていきましたが、非常に難しく、険しく長い道のりでした。最終的には、琴子のあの目に導かれて、今まで書いたことのない音楽ができたと思っています。この映画で描かれている子どもたちと同じような経験をする子どもたちがこの先いないように。今そういう状況にいる世界中の子どもたちが守られ、やりたいことに挑戦できる自由が与えられますように。この映画が多くの人たちのもとへ届くことを願っています。
原案・脚本・監督:西川美和
2020年のコロナ禍から企画し始めましたが、その頃は、これほど戦争が近い時代になるとは予想していませんでした。この映画で描かれる物語は、日本の観客にとってすでに遠すぎる世界ではないかとも思っていたのに、いつの間にかこわいほど身近な物語になってしまったのは、複雑な気分です。日本の戦後と、そこに生きた子ども。それを実写映画で描くのは、とても重たいことです。戦争の惨禍を知らない私がそんな題材をあつかうことに絶えずためらいもありました。いっぽうで、どうせやるならなるべく新しいトーンで、かならず今を生きる人に届く語り口にしよう、これから大人になる人たちにも観てもらえるものにしようと、ものを調べ、長い時間をかけて脚本を書いてきました。なんとも大掛かりなこの映画にK2ピクチャーズがお金を出すと言ったときは、私の方がびっくりしましたが、その後、すばらしい目の輝きを放つ小八重葵美ちゃんと出会え、「この映画を必ずたくさんの人に観てもらいましょう」と言ってくれた二階堂ふみさんと出会え、そして私が心から尊敬するスタッフが集まって、渾身の力をふりしぼってくれました。竹野内豊さんは静かな愛情で葵美ちゃんを応援してくれ、音楽的な才能にあふれた櫻井海音さんも長い準備を経て最良の結果を画に焼きつけてくれました。極めつけは原摩利彦さんがーーあの『国宝』を経て抜け殻かと思いきや、今作でも新たな試みとともに心を鷲掴みにされるような音楽を作ってくれて、信じられないことに、あとちょっとで本当に完成しそうです。自分の作品だということを時々忘れてしまうほど、きらめきに満ちた作品になっています。みなさん、10月の公開をぜひお待ちください。
『わたしの知らない子どもたち』は10月16日(金)より全国にて公開。








