
こんにちは。「1人も見捨てない子育て手札の提案者」として年間数百件以上の子育て相談に乗っているきのぴー先生です。児童自立支援施設に併設された小中学校に勤務し、生徒指導主任を務めました。愛情や正論だけではなかなかうまくいかない子どもとの関わり。この連載では、理想論や正論だけでは届かないところにある、泥くさい現場で培ってきた子どもとの関わり方のヒントをお届けしていきます。
【きのぴー先生の子育て手札 #3】
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▶「強制しない」ことで動き出す強制しないのがポイント。親子でルールを決め実践する「コンテキスト」とは
1)コンテキストとは「味方でいるための事前準備」
コンテキストとは、枠組み・背景・文脈のことを指します。子育ての文脈で言えば、「事前に用意しておく設計」「関わりの前提条件」と考えるとわかりやすいでしょう。世間一般では、これを「ルール」と呼ぶことも多いかもしれません。
ただし、ここでとても大切な視点があります。
多くの親はルールを「子どもに言うことを聞かせるもの」「破ってはいけないもの」として設定しがちです。しかし現実には、私たち大人ですらルールを完璧に守れているわけではありません。法定速度を例に出すと分かりやすいでしょう。誰もが「安全のために守るべき」と理解していながら、状況によっては破ってしまうことがあります。
重要なのは、ルールの存在意義です。法定速度が受け入れられているのは「守らないと怒られるから」ではなく「命を守るため」という目的が共有されているからです。コンテキストも同じです。これは子どもを縛るためのものではありません。子どもの味方でいるために、親が用意する枠組みです。
この視点を見落としたままルールを設定すると、子どもは「押し付けられた」「管理されている」と感じ、嫌悪感を示し、やがて破る対象になっていきます。結果として、そのルール自体を大切にしなくなってしまうのです。
▶親子が楽になる「ルールの作り方」2)「曖昧にしない」ことが、親子を楽にする
コンテキストが重要になるのは、行き渋り・不登校・引きこもりといった場面だけではありません。ゲームやテレビの時間設定など、日常のあらゆる場面で同じことが起きています。
たとえば、「7時にはやめなさいね」。このひと言だけでは、子どもはゲームをなかなか止められません。では、7時にやめられなかったらどうするのか。親が取り上げると決めた場合、子どもが怒ったらどう対応するのか。そこまで含めて決めておく必要があります。
法定速度を破ったときに、罰金や処罰が定められているように、「守れなかったとき、どうなるのか」までがコンテキストです。
改めて考えてみましょう。私たち大人が法定速度を守る理由は、「命を守るため」という理念だけでなく、「捕まりたくないから」という現実的な理由も大きいはずです。だからこそ、「時間を過ぎたらどうなるのか」「どこまでが許容範囲で、どこから介入するのか」を事前に明確にしておくことが大切になります。
今回のケースで言えば、「どこまで娘さんを見守るのか」を曖昧にしないことが、親子双方の安心につながりました。
▶「一方的に決める」のはNGです3)一方的に決めない。事前に同意を得る
コンテキストを決めるとき、親はつい一方的に決めてしまいがちです。「このくらいが普通」「学校には行くべき」、そう思う気持ち自体は自然です。しかし、これは法定速度のような社会ルールとは違い、人と人との心の問題です。子どものフェーズに合わせて、臨機応変に組み立てる必要があります。
たとえば、今1日中ゲームをしている状態の子にいきなり「1日1時間」は現実的ではありません。であれば、まずは「5時間からどうだろう?」と提案する。そして、「この時間にしようと思うけど、それで大丈夫?」と子どもに確認する。もちろん、嫌だと言われることもあります。その場合は、最初は少し子どもに寄り添った枠組みで構いません。大切なのは、同意を得た枠組みで成功体験を積むことです。
少しずつ、少しずつ。この「少しずつ」を侮ってはいけません。教育は、派手な変化ではなく、地道な積み重ねが功を奏します。
4)コンテキストは「コントロール」ではなく「味方宣言」
これらを機能させるために、もっとも重要なポイントがあります。それは、コンテキストを相手をコントロールするために使わないことです。枠組みを「悪者を縛るため」「言うことを聞かせるため」という気持ちで提示すると、子どもはそこから逃れようとします。だからこそ、「これはあなたを管理するためじゃない」「味方でいるために使うんだ」というメッセージを伝える必要があります。
たとえばゲームの時間であれば、「お母さんからガミガミ言われるのって、正直どう?」と聞いてみると、多くの子どもは「嫌だ」と答えます。そこで「だからガミガミ言わないために、こう決めておきたい」と説明をします。さらに「うまくいかない日もあると思うけど、その時はまた一緒に考えよう」と、最後に明るく伝えます。このひと言があるだけで、子どもは「失敗しても大丈夫」と感じ、挑戦しやすくなります。
5)コンテキストは、親の不安を制御するための技術
ここまで話してきたコンテキストは、実は子どものためだけのものではありません。
親が不安になるからこそ「あと何分だよ」「ほら、またできなかった」と、つい声をかけてしまうことがあります。
その「無意識の声かけや落胆の空気」こそが、子どもを追い詰め、親子関係をこじらせる原因になることがあります。コンテキストを敷くことで、「ここまでは言わない」「ここまでは待つ」と、親自身の行動も制御できるようになります。それは結果的に、子どもの心を軽くし、親の心も軽くします。お互いがwin-winでいるために、枠組みは感情任せではなく、意図して用意するものです。
▶「口出ししない」でSさんに変化が!「ここまでは口出ししない」コンテキストに基づいた見守りで、Sさんに変化が!
コンテキストを使いながら見守ることで、Sさんは少しずつ自室から出てきて、新しい道を歩み始めました。Sさんの場合のコンテキストは、こうでした。
- 休学届は自分で出すこと
- 来年までの1年間は休学状態でいられること
- その間は一切、親は口出しをせず見守ると約束すること
このコンテキストを一緒に考えるときの「言い方」も大事です。残念そうに言うのではなく、今までの押し付けを反省していることを伝え、どんなあなたも大切だと伝え、一緒に歩んでいこうと話す。ガミガミ言ってきて申し訳なかったと。
簡単そうに見えますが、ここが難しいのです。
親御さんは本当は「今すぐにでも行ってほしい」と思っている。「1年いいよ」と言うのが怖い。だから今まで言えなかった。しかし、曖昧なまま時間だけが過ぎると回復はしづらい。常に親の目線を気にしながら過ごすことが、状態を長引かせてしまうからです。ここを勘違いしたまま見守ることが非常に多いのです。
1年間の猶予ができ、休学申請も自分でできたことで、Sさんは少しずつ自信を持ち始めました。まず親と会話ができるようになり、自室から少しずつ出てきて、一緒にテレビを見たり、ご飯を食べるようになりました。当然、その間も揺さぶりは何度もありました。
「どうせ私はもうダメだ」「社会不適合者だ」
そんな言葉をたくさん聞き、お母さんも何度も引っ張られそうになったそうです。そのたびに「コンテキストを敷いていること」を思い出し、揺らがずに、堂々と不安を受け止めることを続けました。
以前なら、「そんなこと言わないの」「もうその話やめて」と伝えていたそうです。娘さんの気持ちを受け止めきれなかったそうです。それは、お母さん自身が不安になるからです。けれど枠組みがあることで、不安に耐えられた。我慢も大事だと学び、その我慢を続けていくうちに、Sさんは自ら外出を始め、友達と会うようになり、バイトに復帰し、今では海外留学を考えています。
止まっていた時間が、動き出したのです。
▶必要なのは「任せる設計」重要なのは、子どもをコントロールしようとせず「任せる設計」を作ること
私たち大人は、つい正論を言えば子どもは聞くものだと思いがちです。しかし、スマホやゲームのように「報酬系をくすぐる仕組み」には、子どもはなかなか抗えません。大人ですら、SNSのショート動画で時間が溶けることがあります。
だからこそ必要なのは、子どもの良心に頼り切るのではなく、任せるための枠組み=設計です。ただしそれは、相手を悪者にして縛りつけるためではありません。相手の思いも満たしながら、こちらの思いも満たしながら、枠組みを作る。お互い歩み寄る姿勢が大切です。
Sさんも、すぐの学校復帰・社会復帰を求められたのではなく、「待てる最大限の期間」を示されたことで、自ら立ち上がることができました。
多くの親は「2年間本当に動かなかったらどうしよう」と怯えます。けれど、任せるからこそ、自分がどうにかするんだ、と感じ、自分で動き出します。これは心から任せたことのある人にしか感じられない領域でもあります。止めてしまうのは、大人の不安や押し付けの負のオーラであることが多いのです。
だからこそ、見守る。そのための技術が「コンテキスト」です。
今日はここまで。ありがとうございました。
今回の子育て手札
「コンテキスト」

ただのルール決めと侮ることなかれ。子どもはよりよくありたいと願っています。それを信じるためにも、待つためにも、枠組み「コンテキスト」の技術が役立ちます。
◆プロフィール
1人も見捨てない子育て手札の提案者
きのぴー先生

公立小中学校にて10年間勤務。うち3年間を児童自立支援施設に併設された小中学校で勤務し、生徒指導主任を務める。さまざまな背景をもつ子どもたちと向き合う中で、子どもへの関わり方を技術として体系化。現在は教職を退き、1人も見捨てない子育て手札の提案者として、無料で技術を公開し続けている。現在は講演活動や個別支援も行いながら、感覚やセンスではなく、誰にでもできる関わり方を広めるべく、教育・福祉・家庭の垣根を超えて活動を展開中。Instagram @kinoppi30 (https://www.instagram.com/kinoppi30)/YouTube「きのぴー先生」/Voicy「きのぴーの子育て手札ラジオ」でも子育て技術を発信中。
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