
仕事だけでなく、家事に介護に育児に地域にと、それぞれがそれぞれの立場で多忙な日々を送るオトナサローネ執筆陣。彼女ら&彼らが各自の目線で今年「買ってよかったもの&行ってよかった場所」を語る、2025年ベストバイ&ベストプレイスです。
美容・ヘルスケア領域のライター、葉山より子さんからは、今年のベストプレイスとして「北岳」が。なぜいま登山なのか?詳しくお話いただきます。

【2025ベストバイ&ベストプレイス】
あまり知られていない“日本第二の高峰”、それが北岳
山にあまり馴染みのない人にとっては、「北岳」と聞いても、どこにあるのか、どんな山なのか、思い浮かばないかもしれません。私の周りでも意外と知られていませんでした。そんな北岳が、私にとって「ベストプレイス」になった理由を、これからお伝えしていきますね。

【北岳とは……】
山梨県南アルプス市に位置する、標高3,193mを誇る日本第二の高峰です。海底の隆起によって形成され、今も地殻変動による成長が続いています。間ノ岳、農鳥岳とともに「白根三山」と呼ばれ、その中で最も北に位置することから「北岳」と名付けられました。また、日本百名山、新・花の百名山にも選ばれており、高山植物の豊かさでも知られる名峰です。
なぜ北岳を目指したのか?「ぜんぶ見えるから」の一言
以前、山梨でタクシーに乗った際、地元の運転手さんが「皆、富士山に登るけれど、富士山は眺める山。登るべき山は北岳だよ」と話されました。その理由を「山頂に登れば、富士山、南アルプス、中央アルプス、北アルプス、八ヶ岳まで、ぜんぶ見えるから」と、熱く語ってくれたのです。
それ以来、「いつか北岳に登りたい」と憧れの山になりました。しかし、登山では急登が多く、標高差約1,700mの登りになります。登りはどうにか乗り越えられても、下山時の急な下りには恐怖を感じていました。
登山4年目、満を持して臨む、雨でも行くと決めて
今年、登山を始めて4年目となり、3,000m級は槍ヶ岳、仙丈ヶ岳、乗鞍岳、富士山と4座を登頂してきました。満を持して、7月に北岳へ。2度目の北岳となる夫と登りました。
1度目は、雨に見舞われ、山頂は眺望のない白一色の世界でしたので、リベンジ山行でした。ただ、山の天気は予報通りにならないことも多く、実際に行ってみないとわからないところがあります。そのため、雨予報でも向かうつもりでした。
北岳が「ベストプレイス」になった理由 この美しい富士も眼前に。遮るもののない絶景
天候に恵まれ、北岳山頂はこれまでに見てきた絶景の中でも、ひときわ感動した眺めでした。遮るもののない360度の大パノラマ。言葉通りに、富士山、南アルプス、中央アルプス、北アルプス、八ヶ岳までをぜんぶ眺めることができました。山と雲と空しかない壮大な世界で、これほど静かにゆったりと過ごせるとは思ってもいませんでした。
以前登った北アルプスの槍ヶ岳では、山頂が狭く、登山者が次々と登ってくるため、写真を撮るとすぐに下山。景色を味わう余裕はありませんでした。その点、北岳の山頂では、雲海に浮かぶ富士山、神々しいご来光、朝焼けに染まる山、山から流れ落ちる滝雲、影北岳……刻々と表情を変える景色を、心ゆくまで眺めることができました。そんな絶景の中でゆっくりと過ごせた北岳山頂は、まさに「ベストプレイス」でした。

朝焼けと雲海に浮かぶ富士山

奥秩父の山の奥から現れたご来光と富士山

朝日に染まる、間ノ岳への3,000m級の”天空の稜線”。山小屋は北岳山荘。

影富士のような影北岳

北アルプスの山並み、右側のつんと尖っている山が槍ヶ岳

中央アルプスの山並み

甲斐駒ヶ岳の右背後に八ヶ岳連峰

コーヒーを飲みながら山頂でゆっくり。手の先は鳳凰三山。
北岳が「ベストプレイス」になった理由 ただ歩みを進める。最後に一気に開ける視界、これが人生だなと思う
山小屋の肩の小屋(3,000m)までの登りは、大量の汗をかきながらのきつい道のりでした。それでも、一歩足を前に出せば進む。深く息を吐きながら、「あと〇時間で着く」と自分を鼓舞し、淡々と登っていきました。
私は、不安や過去の出来事で頭の中がいっぱいになってしまう傾向があります。けれど厳しめの登山では、足元や呼吸に全意識が集中するので、いつの間にか余計な思考が遠のいていきます。
北岳では、怪我をしないよう、岩場の足元だけに集中して登っていき、山頂に着いた瞬間、一気に視界が広がりました。と同時に、体は疲れていても、頭の中のモヤモヤはすっきりとクリアに晴れ、気持ちまで軽やかになっていました。
今まで感じていたことが、北岳に登って、「今ここ」に集中する厳しめ登山こそが、私にとって「最高のマインドフルネス」の時間だったのだとはっきりとわかりました。それが「ベストプレイス」だと感じた、もう一つの理由です。
帰宅すると、また日常に戻っていくのですが……。だからこそ登山に行きたくなるのかもしれません。
絶景だけじゃなかった!「花の百名山」でもあるのです
北岳は「新・花の百名山」のひとつ。たくさんの高山植物が楽しめます。時期によっては、固有種や絶滅危惧種に指定されている希少な高山植物の花々に出会えることも。天候が悪いときは、高山植物が慰めてくれます。

7月に出会った高山植物

準絶滅危惧種に指定されている「タカネマンテマは」厳しい環境の中で静かに咲いていました。
北岳2日間の行程とアクセス
登山前日に、新宿からJRで甲府駅に向かい、甲府のホテルで前泊。
■1日目
早朝、タクシーで北岳登山口の広河原へ。WC済ませ広河原ー白根御池(WC)ー急登の草すべりー「北岳肩の小屋」泊(3,000m)(約5時間40分)
夕食と夕日を堪能し就寝。
■2日目
03:45出発し約50分ほどで山頂へ。
ご来光を拝み、肩の小屋で朝食のお弁当を食べて、同じルートを下山。
広河原からバスで甲府駅へ。
温泉「喜久乃湯」に入り新宿に戻りました。
※高山病が不安な場合、登山口の広河原山荘(1,530m)や白根御池小屋(2,200m)に宿泊して高度に慣れたほうがいいかもしれません。
7月でも朝夕は5前後、3,193mで着ていたウェア一式
風が強いと体感温度はさらに下がります。そのため、重ね着を基本にした防寒・温度調節を意識しました。登山を始めた頃はわからないことだらけで、試行錯誤しながら様々なアイテムを揃えてきました。このセットは気温差のある山行でも快適に過ごすことができました。下山時は気温が上がるため、調整しながら下り、途中からはベースレイヤーになりました。

▪️ドライレイヤー(肌着)
私にとって重要アイテム。汗冷えやベタつき、ニオイを軽減するブラタンクトップとショーツ。
▪️ベースレイヤー
メリノウール混紡の長袖。吸湿発散性と速乾性に加え、天然素材ならではの温度調節機能と防臭効果も。
▪️ミドルレイヤー/アウターレイヤー
防寒・防風対策として、通気性と伸縮性のあるミドルレイヤーと、防水・防風性があり、蒸れにくいゴアテックスのレインウェア。
▪️ボトムス
ストレッチ性・速乾性・耐久性に優れた登山用パンツの下に、下半身をフルサポートするスポーツタイツ。
▪️ソックス
フィット感があり、長時間歩いても蒸れにくい登山用ソックス。
▪️登山靴
安定感のあるミドルカット。私の足に合っていたのはスカルパでした。
※ザックは容量40Lを使用。
これから目指したい山
30代になった頃、「スイス・マッターホルンを眺めながらのハイキングツアー」で山の美しさを実感しました。その後、変形性股関節症を長く患い、手術を経験。主治医の先生から「ラグビーとフルマラソン以外なら、何でもできるよ」と言われ、恐る恐る、術後3か月で、夫と「秀麗富嶽十二景」の高川山へ。これが、登山のスタートでした。現在63歳。普段は仕事で座って過ごす時間が長いのですが、いつまでも登山を続けられるよう、スクワットだけは毎日100回以上は続けています。
1月と2月は美しい雪景色を求めて雪山へ行く予定です。すべては天候次第ですが、来年の希望は、「ベストプレイス」の北岳から間ノ岳への縦走や、北アルプスの秘境・三俣山荘から朝日で赤く染まる槍ヶ岳を眺めること。そして65歳までにマチュピチュへの登山や九州の山々など、山は多いので目標は尽きないですね(笑)
スクワットを“お守り”に、無理なく山と向き合っていきたいと思っています。
【2025ベストバイ&ベストプレイス】




