明治大学政治経済学部の加藤言人専任講師、Queen’s UniversityのFan Lu助教授、早稲田大学社会科学総合学術院の遠藤晶久教授らの研究グループは、日本の有権者が女性候補に対し好印象を抱いているにもかかわらず、ほかの有権者は女性を選ばないだろうと考える「選好 - 期待ギャップ」の存在を明らかにした。 「選好 - 期待ギャップ」は、女性候補への投票を控える「戦略的差別」の一因となりうるメカニズムであり、日本政治における女性の過小代表の要因を理解するうえで重要だと考えられる。研究は、政治分野でのジェンダー格差が大きい日本において、有権者は女性政治家を好む一方で、女性政治家の当選期待は低いという「選好 - 期待ギャップ」が存在することを初めて明らかにした。 このギャップは、当選可能性が低いと感じた候補への投票が避けられる「戦略的差別」のメカニズムの一部として機能し、女性候補者の当選を阻む一因となっている可能性がある。研究結果は、日本政治におけるジェンダー格差解消のためには、女性候補者への「選好」を高めるだけでなく、「日本社会における男女平等意識は決して低くない」という、「期待」自体をアップデートしていく必要があることを示唆している。 今後の研究課題として、「選好 - 期待ギャップ」が実際に日本の有権者の政治行動や投票選択においてどのような役割を果たしているのか、実証的に評価することがあげられる。また、「選好 - 期待ギャップ」は、女性候補者に対してだけでなく、若者や民族的、性的マイノリティなど、政治において過少代表されるグループに属する候補者に対しても適用できる概念である。さらに、有権者だけでなく、政党の幹部など候補者擁立に関わる政治エリートの間にも同様のギャップが存在する可能性があるため、候補者擁立時の意思決定において「戦略的差別」が生じているのかどうかを探る、理論的・実証的な検討が発展するきっかけとなる研究でもあると考えられている。◆論文情報雑誌名:Public Opinion Quarterly論文名:The Preference-Expectation Gap in Support for Female Candidates: Evidence from Japan執筆者名(所属機関名):加藤言人 (明治大学)、Fan Lu* (Queen’s University)、遠藤晶久(早稲田大学)掲載日時(日本時間): 2025年5月23日(online first)