40~50代の女性は、ホルモンバランスの乱れから今まで感じていなかったような原因不明の不調に悩まされることがどんどん増えてきます。そんな更年期世代の女性にとって、特に深刻なのが「冷え」だってご存じでしたか?
「体調を司るのはすべて血流なので、全身の不調のもとはその血流を妨げる「冷え」にあるといっても過言ではないんです」と警鐘を鳴らすのは、オトナサローネでおなじみの医師・石原新菜先生。
なんとなく冷えが体に悪いことは知っていても、それはいったいなぜなのか。心と体に与える影響や冷えない体をつくるヒントなど、石原先生にじっくり解説していただく連載をスタートします。読んでくださったみなさまが体を温め、ご自愛のきっかけとなりますように!
【石原新菜先生の“ご自愛温活”のすすめ#1】
ホットフラッシュ、ほてり、動悸はどこを温めるべき?
女性は40歳前後から女性ホルモンが乱れはじめ、眠れない、気分が落ち込む、めまいなどの不調を感じはじめます。閉経にともなう女性ホルモンの低下による不調を更年期症状と呼びますが、更年期以前の30代後半から40代前半のプレ更年期から不調に悩む人は少なくありません。なかでも代表的な症状のひとつがホットフラッシュです。
ホットフラッシュは突然体が熱くなり、顔や頭から汗がドーッとわき出すように出てくる症状。このホットフラッシュも実は冷えが原因なんですよ。更年期症状や生理痛など婦人科系のトラブルを抱える人のおなかをさわってみると、ひんやりと冷たい場合がほとんど。手でさわってわかるほどおなかが冷えています。
おなかが冷えると、そこに本来あるべき血液や熱が上半身に昇ります。これを漢方では「昇症」といい、顔だけ突然熱くなって汗が出るホットフラッシュをはじめ、ほてり、のぼせ、動悸など、更年期の代表的な症状はまさに冷えからくる「昇症」のサインなのです。
すべての臓器は血液が運んでくれた水分や栄養素、酸素で働いています。体の中で不要になった老廃物を回収するのも血液。スムーズに全身を血液が巡っていれば、内臓は元気に働いてくれます。
ところが、体が冷えていると血流が悪くなり、臓器の働きもダウン。特に下腹部にある子宮や卵巣が冷えて血流が悪くなると、女性ホルモンの分泌の低下が加速します。また、下腹部には膀胱もあるので膀胱炎や尿漏れも、実は冷えが原因のひとつとなっていることが多いのです。
イライラや落ち込み、メンタル症状も冷えが影響していた!
そのうえ、おなかの冷えはメンタルにも悪影響を及ぼします。最近、イライラや落ち込み、やる気がないなど、精神的なお悩みを抱えていないでしょうか? そんな人のおなかも婦人科トラブルを抱えている人と同じように、さわると冷えています。これは下半身の血液が上半身に集まり、まさに頭に血がのぼっている状態です。
加えて、仕事やプライベートでストレスがかかると、交感神経が活性化して血管がギュッと縮まります。全身の血の巡りが悪くなることで、心にも体にも原因のわからない不調が現われてくるのです。
腸を温めると免疫力が上がる?
もうひとつ、おなかの冷えが深刻なのが腸の冷えです。全身の免疫細胞の7割が腸にあるといわれています。そのため、おなかの冷えは便秘や下痢などの不調の原因になるのはもちろん、免疫細胞が正常に働かなくなり、大きな病気を起こしやすくなるのです!
漢方では「冷えは万病のもと」といいます。全身の不調のもとは「冷え」にあるといっても過言ではありません。ちなみに私たち漢方医がよく使う漢方薬は150種類くらいあるのですが、そのほとんどが体を温める作用のあるもの。逆に体を冷やすものは3種類ほどしかありません。
例えば胃の調子が悪いなら、胃の血流をよくして胃の働きを活性化するのが漢方的な考え方。根本的な体質改善を目指すのが漢方です。一方で、今ある症状に目を向ける対処療法が西洋医学です。例えば頭痛薬などの鎮痛剤は痛みもとってくれますが、熱も下げます。つまり血流を悪くする作用もあるので、継続的にとっていると体を冷やして、頭痛が慢性化してしまう恐れも。
また、生理痛で鎮痛剤を欠かせない方もいらっしゃいますよね。生理はいつもより冷えやすい時期なのに、鎮痛剤を飲み続けることでもっと体の冷え症状を重くしていることもあります。痛くてガマンできない場合は鎮痛剤を活用するのはよいことなのですが、慢性的な生理痛で悩んでいたら、体を温めて冷えを根本的に解決すると痛みが軽減する場合があるのです。
簡単に冷えを予防できるおすすめ習慣2つ
では、特に下半身の冷えを改善するにはどうすればよいでしょうか? 私がまずおすすめするのが、誰でも気軽に取り入れられるのが腹巻きです。私自身も一年中、暑い夏でも腹巻きは欠かしません。腹巻きでおなかにあるたくさんの臓器を温めてあげると血流が促されて、臓器の働きが活性化します。できれば寝ている間も含めて24時間腹巻きを着用してみてください。
またもうひとつ、ぜひ取り入れてほしいのがお風呂で湯舟につかること。特に一日中デスクワークをしている人やシャワーで済ませている人は血液が上半身に行き届かず、更年期の症状を起こしやすい傾向があります。一日の終わりにじわじわっと汗をかくくらい10分ほど湯舟につかるのが理想です。汗が出るのは体温が一度上がった証拠。長く湯船につかる必要はなく、鼻の頭に少し汗をかいたら湯船から出てOK。夏は38度、冬は40度前後のお湯が適温です。
40~50代は女性ホルモンの乱れに加えて、仕事や子育て、介護、そして将来への不安など、ライフステージの変化にともなって大きな重荷を抱えている世代です。だからこそ自分自身でホルモンのバランスを少しでも調整できるようになると、心と体がふっと軽くなると思います。
腹巻きをすること、毎日ほんの10分お風呂につかること、これなら忙しくてもできそうですよね? 簡単なことから自分の体を守る、温め習慣をぜひ取り入れてご自愛くださいね。
【解説】
イシハラクリニック 副院長
石原新菜先生
ヒポクラティック・サナトリウム副施設長、健康ソムリエ理事。1980年 長崎市生まれ。小学2年生までスイスで過ごし、高校卒業まで静岡県伊東市で育つ。2000年4月帝京大学医学部に入学し、卒業後は同大学病院で2年間の研修医を経て、現在父、石原結實のクリニックで主に漢方医学、自然療法、食事療法により、種々の病気の治療にあたっている。クリニックでの診察の他、わかりやすい医学解説と親しみやすい人柄で、講演、テレビ、ラジオ、執筆活動と幅広く活躍中。
撮影/佐山裕子(主婦の友社)