元TBSアナウンサーのアンヌ遙香がニッチな眼差しで映画と女の生き様をああだこうだ考え、“今思うこと”を綴る連載です。ほんのりマニアックな視点と語りをどうぞお楽しみに!
【アンヌ遙香、「映画と女」を語る #9】
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札幌はカフェ大国!みなさん、カフェや喫茶店は好きですか?
故郷の札幌に帰ってきて思うのは、とても素敵な喫茶店が想像以上に多いということ。
実は北海道の人、これは本当に不思議な現象なのですが、お紅茶よりもコーヒー党がかなり多いそうで、全国家計調査を鑑みてもコーヒーへの支出はなかなかの上位とのデータもあるそうです。
たまたま通りがかりで趣ある看板に一目惚れして、入店してみたら大正解!なんてこともザラ。出かけるたびに地域密着型の喫茶店を見つけては、ハラハラドキドキしながら重厚な扉をそっと押してみる、なんていうのが最近の私の楽しみです。
北海道のおすすめ飲食店を取材してまとめさせていただくライター業もしておりますが、人や雑誌のおすすめより、自分の肌感覚や「この店は!」というビビビ感がライター業では大切だったりします。カフェ好きの方、この「飲食店第六感」、わかりますよね?
カフェ、喫茶店好きならやっぱり『かもめ食堂』
そんな喫茶店やカフェ好きの方なら『かもめ食堂』が琴線に触れる方が多いかも。フィンランドにかもめ食堂という小さな食堂(と言いながらも、私はカフェだなあと思って拝見していましたが)をオープンした日本人女性(小林聡美)。
客足がまばらな中、2人の日本人女性がふらっと現れ手伝いをするようになります。大きな事件もなく、びっくりするような山場もなく、ですが、淡々と水のようにスーッと時が流れていく様が心地よい、ストーリーというより空気を楽しむような、そんな作品です。
ほとんどが店内で話が進みます。時折映るフィンランド家庭のインテリアや自然の風景に「素敵!」となり、「穏やかな空気」が見どころと言ってもよいかもしれません。登場人物1人1人の人生を必要以上に深掘りしたり、無理に語らせたりすることもないのです。まさしくこの映画そのものが「客との距離感がほとよいカフェ」のようとも言えます。
実は最近、良いカフェとは?良い距離感とは?を考えさせるプチ事件がおきた私。ちょっと聞いてくださいよ。
こだわり喫茶店での衝撃接客にあぜん!?
札幌中心部にあり、駅からも歩いて行ける距離にある某老舗喫茶店に足を運んだときのこと。ガラス張りで開放的なルックスはインスタ映えしそう。近未来感とレトロ感がうまく融合した、魅力的外観。扉を開けてみれば天井も高く広々としており、マホガニー調の落ち着きある店内はまるでヨーロッパに来たかのような趣があります。
私がお邪魔したのはおやつどき。コーヒーやケーキを楽しむには絶好の時間帯です。しかし意外にも、先客は女子大生と思しき4人組、店の奥の大テーブルに1人陣取る白髪の紳士、そしてカウンターでスポーツ新聞片手にエスプレッソを楽しむアーガイル柄セーターを着た中年男性のみ、でした。
ある程度有名店であるはずなのに想像以上のがらんとした空気感に若干びっくりしたのは事実。札幌の場合ですと、人気店であれば「場合によっては少しお待ちいただいて」なんてこともあるはずなのですが…こちらのお店は怖いくらいに空いていました。これから書くことは私の一方的な印象であり、暴論の可能性もありますが、ご容赦くださいませ!
ガラガラの喫茶店の要因は…衝撃の接客にあるのでは!?
ガラ空きの理由はもしかしたらお店の方の「距離感」の問題なのかなぁ…なんて思うことがあったのです。私が席に着いてしばらくしてから、ショートカットのスラッとした女性店員が席まで注文を取りに来てくれました。「何名様ですか?」特ににこりとするわけでもなく、メニューをおき、するっと踵を返してカウンターへ。
「なかなかドライな感じなのね、全然OK!そういうお店はたくさんあるし」と感じながら数分後、私はチーズトーストとコーヒーを注文。そして彼女はノースマイル、無言であっという間にいなくなったのでした。
なるほど、あくまでも私の印象ですが……名店なだけあって、あまり笑顔の安売りとか、必要以上の過剰なサービスとかはしないお店なのね…それはそれで良いと思うぞ!と思っていたのです。
しかし、私の視線の先にあるカウンター。先ほどまでスーンとしていた女性店員が、こぼれんばかりの笑顔を見せながら常連と思しきアーガイル紳士さんと話し込む姿が見えたのでした。こ、こんな素敵な笑顔を見せる方だったのね…。しかもなかなかのボリュームで会話の内容が全て聞こえてくる。
どうやら大谷翔平選手と水原一平さんの話題のよう。水原さんの処遇がどうなるのか、アーガイル柄の常連さんは、丁寧に解説中。彼女はそんな彼に、目をキラキラさせながら弾けんばかりの笑顔を見せ、その話に熱心に聞き入っていました。なるほど…このお客様がお気に入りなのね、仲良しなのね。恋愛感情抱いているのかもしれないし、しょうがないよね…。
なんて思っていた矢先、店の奥にいた1人の白髪紳士が席を立ちレジの方へ。どうやらお会計のお時間です。それを視線に入れた彼女、先ほどまでの笑顔がすっと能面のように無の状態となり、足早にレジの方向へ。お会計男性はかなり気が利く方、お釣りがでないように小銭でちょうどの値段をレジに置いたようでした。彼女はそのお金をすっとつまみ、光の速さでレジに入れ、「ありがとうございました」と小声でつぶやき、すぐさままた常連さんが待つカウンターの元へ。戻ったかと思うと、彼女はなんとその常連さんの隣に腰を下ろして、一生懸命話の続きを始めたのでした。
あら、座っちゃったよ…。仲良しのお客さんがいるのは全然よい!でも、お会計の時くらい他のお客様にも気を配ってあげて!!あとさすがに…横に座っちゃうのはやりすぎでは!? なんて思ってしまった私はおそらく気にしすぎだよね。小姑みたいでごめん!!
まあ、ね!あるよね!よくあります!お店の方は愛想がないけれども、抜群においしい居酒屋さんとか、あるよね!だから、おそらくコーヒーもチーズトーストもとんでもないおいしさに違いない!!と私は期待を込めていたわけですが…。
ごめん!普通だった!!!あちゃ~。いやむしろ、札幌はどこでなにを食べても美味しいというのが定説でして、「普通」は結構残念な感じなのです。しかも、ちょっと値段高かったんだよなあ。
モヤモヤ接客と、希少な一杯
ぎゃー!厳しくてごめんね。はい、すみません。この一連の流れ、ちょっともやもやしちゃうのは、、、私の気にしすぎだとはわかってます!けど!
今回私がモヤッとしたのは、使っているコーヒー豆もこだわりがあり、ヨーロピアンアンティーク調の家具はわざわざ本場まで買い付けに行ったものだと聞いていたこちらのカフェ。おそらく、それはただ飲み食いを楽しむ以上の「特別な時間と空間の提供」をお客さんにしたいと言う思いから、ですよね。
はっきり言って、彼女の接客はちょっといただけないというか、例えるならファストフード店で働く高校生の接客の方がよほどプロ意識があり心地よく、しっかりしたものだな、という印象を受けました。私たちは空間そのものを楽しむ場所代及び時間代も含めて、ファストフードの何倍もする1杯のコーヒーにお金を払っているわけですよね。
実は私、外食できる時間って本当に貴重なんです。大型犬を飼っているため、仕事でワンチャンを預けている時に、ついでに駆け込みで楽しんだりすることがほとんど。
私にとって、外食やカフェの1回1回の時間がとてもレアなものなんです。1回1回が勝負といっても過言ではない。そういう方、本当にたくさんいると思うんです。一杯のコーヒーを楽しむのだって、めったに行けるものではないから、どこのお店に行こうかなって私はかなり時間をかけて考えますが、これって例えば小さいお子さんがいるお母さんたちも当てはまることですよね?
小さいお子さんを家族や保育園に預けている間に仕事をし、その合間に美容院に行ったり、場合によっては熱々のラーメンがどうしても食べたくなって駆け込みでお店に入ることもあるでしょう。
だからこそ私は今回、ワクワクしていた空気感そのものを裏切られたような気がしてしまってモヤモヤしちゃったんですよね。わがままなのはわかってます。ごめんなさいね。
安さを売りにしたお店なら全然良いんです。でも!特に!こういったカフェや喫茶店は、かもめ食堂のような、水のような淡々とした空気感、居心地というのがとても大事だと思うのです。
もちろん常連さんにはある程度のフレンドリーさや寄り添いというものも必要だとは思いますが、深入りせずお互いに絶妙な距離感で心地よい空気が流れていく…それが「良いカフェ、喫茶店」なのではないかなぁなんてなんて思ったり。
ぜひ「こだわり」のあるお店の方にお伝えしたい!!お店の方にとっては毎日数多くいらっしゃるカスタマーの1人かもしれませんが、お客さんとしてお邪魔している私たちにとっては、とっておきの大切な1杯なんです!
ああ、あの日はシッターさんにうちの愛犬を迎えに行く前のわずかな時間で駆け込んだ日だったことを思い出してしまいました。無念。
今回は私の愚痴のようなコラムになってしまいましたが、あの彼女にはぜひ『かもめ食堂』を観ていただきたいなぁなんて思った日でした。あーあ、もうあのお店には二度と行かないかなあ…。