病院で薬剤師をしている岐阜県在住の裕子さん(53歳・仮名)。患者さんに説明している時に顔から吹き出る汗に悩んでいました。制服の下なので見えないのですが、汗は全身から吹き出ました。更年期の症状、ホットフラッシュです。他にも関節痛などの症状が。どのように乗り越えたのでしょう。
全身から吹き出る汗が止まらないホットフラッシュ
裕子さんの場合、40代半ばから更年期の症状、ホットフラッシュが始まりました。患者さんと対面する仕事だったので、顔から吹き出る汗が恥ずかしくてたまらなかったそうです。
「汗が全身から湧き出る感じで尋常じゃないんです。特に顔がひどくてびしょびしょになって、化粧なんか流れ落ちてしまう感じでした。患者さんに説明している時に、わーっと汗が吹き出てくると恥ずかしいでしょう。でも、しょっちゅう拭うわけにもいかず困りました。その頃、めまいもするようになりました。ぐるぐるするのではなくて、地に足がつかないようなふわふわした感じでした。この時は婦人科で診てもらいました」
婦人科に行くと、皮膚にシールを貼るホルモン補充療法を勧められ、続けてみましたが、症状は一向に改善しませんでした。仕方ないので、裕子さんは漢方薬の当帰芍薬散や加味逍遙散などを自分で選んで服用してみました。しかし、漢方薬もあまり効果は感じられず、どうにもなりません。
「ちょうどその頃、ブクブク太ってきて、痩せられなくなりました。それまでは、太ったなと思ったら、ダイエット食を食べたり運動したりするだけでスムーズに痩せられました。でも、この時は、そんなことでは痩せられず、結局10kgくらい太ってしまいました。体調も絶不調で、首や腰にも痛みが出てきて整形外科を受診しました」
7日間のダイエットにチャレンジ!
体がボロボロになっていく…そう思って落胆していた頃に、裕子さんはあるダイエット本に出会いました。
「更年期障害のためではなく、子どもの卒業式に着たいスーツがあったんです。どうしてもそのスーツが着たい!そう思った時にちょうど出会った本でした。レシピが載っているので、最初はその通り忠実に実行しました。合わせて筋トレや有酸素運動もしました。
当時私は、体重約64kg、体脂肪率32%でしたが、そのダイエットを始めてから3ヶ月で10kg痩せました。洋服はLサイズだったのですが、Sサイズが着られるようになりました。なぜかその後、体調も回復し、いろんな症状も気にならない程度になりました。それがダイエットによるものなのかどうなのかは分かりません」
再び襲ってきた更年期の症状

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何はともあれ、首や腰の痛みも軽減されたので整形外科にも行かなくなった裕子さん。しばらく調子が良かったのですが、50歳くらいの時に閉経に差しかかり、52歳の時に手の痺れを感じるようになりました。
「更年期がまた来た!と思いました。ホットフラッシュやめまいも治っていたのですが、また復活してきたのです。ある朝起きたら突然手足がこわばっていて、全身にこわばりを感じました」
いよいよ「これはやばいぞ」と思った裕子さん。今度は、病院は受診せず、自分でなんとかしようと思いました。
「ダイエットは継続していたのですが、食べて痩せるダイエットなので、栄養失調だとか体に悪影響があったとは思えません。
血流が悪くなったのかもしれないと思い、ビタミンEのサプリを飲んだり、ビタミンEが配合されたハンドクリームを手に塗ったりしました。大豆イソフラボン成分は今も継続して飲んでいます。骨粗鬆症予防のためにビタミンDも飲むようになりました。
こわばりやしびれはだんだん和らいできました。」
どうしようかと迷っているうちにどんどん時間が経っていくので、自ら人体実験的にすぐ対策したという裕子さん。それは裕子さんが薬剤師で、知識があるからできたことなのかもしれません。
「肘や膝が痛くて、階段の上り下りも辛かったのですが、最近それも和らいできました。薬剤師という仕事柄、錠剤を1錠ずつシートから取り出して、他の薬とセットして袋に詰める作業もあり、指の関節が痛かった時は、このまま仕事を続けられるのかという心配もありました。それも今は大丈夫です。
ただ、今でもホットフラッシュが完全に治ったわけではありません。冬でも汗をかく時にカーッと暑くなるので、首に冷却できるリングをつけたりミニ扇風機で煽ったりして対策しています。患者さんの前だと本当に困ってしまうので」
体型維持のためにダイエットは継続
ずっとあのときに出会った本のダイエットを続けている裕子さん。食事と筋トレと有酸素運動を続けて約4年になります。
食べて痩せるという方法が裕子さんに合っていたようです。月に一度は東京に行って、著者のパーソナルトレーニングも受けています。
「それまで食べる量を減らす方法でダイエットしていたので、代謝が落ちて一向に痩せなかったんです。でも、タンパク質をしっかり摂って代謝上げて痩せるというコンセプトのダイエットなので、思うように絞ることができました。1日の摂取カロリーは1200カロリーで、結構カロリー控えめのダイエットです。そこまで制限しない方法もあるのですが、私はガチでやっていました。
10kg痩せてからは、食事を自分でアレンジするようになりました。私の体質に合わない下痢や便秘を起こしやすい食材があるので、それらは使わないようにしています。
もちろん運動も結構しています。アラフィフだと努力しないと太ってしまうでしょう。もう3年以上続けています。結果が出ると燃えるタイプなので嬉しいんです!
現在は体重約52kg、体脂肪率17.8%です。ボディメイクは成功したので、今は痩せるためにダイエットするのではなく、体型を維持するために続けています。私は結構運動するので、そこまでカロリーを抑えていません。
痩せ過ぎないように食べています。痩せ過ぎると老けちゃうんですよね。骨が浮き出てギスギス感が出ちゃうので、それを防ぐためにしっかり食べてしっかり運動しています」
痩せるためではないと言っても、さらに上を目指しているという裕子さん。運動量も半端ではありません。
「私の場合、ランニングをするとふくらはぎに筋肉がついて太くなってしまうので、ウォーキングをしています。休日は1日2万歩以上、それ以外の日は1万歩以上歩いています。毎日必ず目標を達成するようにしています。
血液検査の結果もすごく良くなりましたが、女性ホルモンが少ないからかオールAは難しいですね」
さまざまな不調を乗り越え、ダイエットにも成功した裕子さん。話を聞くと、相当な努力家で、特に、食事と運動の継続力、月に一度は東京まで行ってパーソナルトレーニングを受ける熱意は並大抵のものではありません。ご自身でも「ストイックにやっている」とおっしゃっていました。
更年期の症状が治った理由は分かりませんが、不調が続いている時もダイエットを楽しんでいたことが良かったのかもしれませんね。
>>>次のページでは、柴田先生に裕子さんが感じた更年期症状とそのための対策が適切だったのかどうかについて、お話を伺いました。
柴田綾子先生のコメント
▪️更年期にホットフラッシュで困る女性は沢山います
裕子さんのお話は、多くの女性が経験する更年期障害の症状そのものだと思います。
ホットフラッシュとは、おもに顔や上半身に突然おこる「のぼせ、ほてり、汗」などで、同時に顔が赤くなったり動悸やめまいが起こることもあります。困るのは、ホットフラッシュは予兆なく急に起こり、自分では症状を止められないことです。ひどい方の場合は、寝ている間にも起こり不眠症の原因になったりします。また、関節痛は日本人の女性に起こりやすい更年期症状で、肩こり、手の指のこわばりや痛み、腰の痛みなどを感じる女性が多いです。
ホットフラッシュは、更年期障害の全員に起こるわけではなく、約半数と言われています。
ホットフラッシュが無くても、関節痛や疲れなどが更年期障害の中心の症状のこともあります。もしこれらの症状で困っている方は、産婦人科にも相談してみてください。
▪️更年期障害の治療について
裕子さんの場合、ホルモン補充療法の皮膚に貼るシールを試したが、効果を感じられなかったため、漢方やエクオールを試されたということですね。女性ホルモンを補う、ホルモン補充療法は、相性があえば、とても効果が高い治療法ですが、なかには相性が合わない方もいらっしゃいます。
そのようなときは、裕子さんのように漢方やエクオールなどを使ったり、別のホルモン補充療法の薬(飲み薬や塗り薬)を試すことがあります。一つのホルモン剤で相性が悪くても、別のホルモン剤に変えると、調子が良くなることもあります。
▪️実は……更年期は太りやすい
たくさんの更年期女性から「更年期になって太ってしまった」「健康診断で中性脂肪やコレステロールが高いと言われた」と相談を受けます。これは女性ホルモンのエストロゲンが低下したことが原因です。
エストロゲンは、体の代謝に関係しており、エストロゲンが減ることで代謝が悪くなり、中性脂肪やLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が増えやすくなったり、太りやすくなります。そのため、裕子さんのように、積極的に運動をしたり食事を気をつけるのは、とても大切です。
▪️ダイエットや運動は更年期障害の治療になる
実はダイエットや運動は、更年期障害のホットフラッシュを改善させる効果があることが分かっています。特に、平さんがしてくださっているウォーキングなどの有酸素運動(他にもヨガやスイミングなど)は、ホットフラッシュの症状を改善させることが研究から分かっています。
また、ダイエット(肥満の方が標準体重を目標に体重を減らすこと)も、ホットフラッシュや更年期障害の症状を改善させる効果があります。単に「食事量やカロリーを減らして体重を落とす」のではなく、裕子さんのようにタンパク質や栄養素はしっかりとり、有酸素運動を取り入れてボディメイキングを目標にするのがおすすめです。
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プロフィール
柴田綾子(しばた あやこ)先生
産婦人科専門医・指導医、周産期母体・胎児専門医
世界遺産15カ国ほど旅行した経験から母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。周産期センターで診療するかたわら、女性の健康に関する情報発信や、低用量ピルや更年期障害に対するホルモン補充療法を解説するセミナーを開催している。『女性の救急外来 ただいま診断中!』『産婦人科ポケットガイド』『女性診療エッセンス100』『明日からできる! ウィメンズヘルスケア マスト&ミニマム』など、著書多数。