フェムケアという言葉を目にする機会は年々増えています。日本は2020年が「フェムテック元年」と言われることが多いのですが、実は今を去ること1985年にすでにフェムケアの概念を持っていた会社がロート製薬。「目薬の会社だよね?」思うでしょう、それも正解なのですが、実際は胃腸薬やスキンケア、そして妊娠検査薬まで、製薬会社としてとして非常に幅広い研究開発を行っています。
「女性の健康を一生のスパンで考えたときにまだまだ必要とされていることがたくさんあって、私たちにもできることがあるのではないか、とプロジェクトが始まりました」。こう話すのはロート製薬 スキンケア製品開発部 開発1G シンドゥ サンガベルさん(写真右)。同社広報・CSV推進部 広報グループ 岡田真由香さん(左)とともに、この春新登場する大型フェムケア製品「ラビオーム」の開発背景を伺いました。
【気になる製品の「開発秘話」聞いてみました】
80年代の男女均等雇用法の頃から「脈々と手掛けてきた」フェムケア。その元祖は意外なアイテム

ロート製薬 広報・CSV推進部 広報グループ 岡田真由香さん
「フェムケアという言葉そのものに各社いろいろな概念があります。弊社は米国で発売されていた妊娠検査薬を日本で発売したいという想いから始まりました」(岡田さん)
85年は男女雇用機会均等法が制定された年。女性の社会進出は進み始めたものの、妊娠は産婦人科医にかからない限り判定できず、仕事を休んでの受診もなかなか……という状況でした。
「妊娠に気づかないまま普段の生活を続けることで、母体にも胎児にも負担がかかるというのが当時の社会課題でした。欧米のようにセルフで判定する妊娠検査薬の必要性は弊社内では認識されていましたが、まだそうした医薬品の分類自体が存在していない時代。そんな中で業界が一丸になり、OTC化を省庁にかけあい、なんとか実現したという経緯があります」(岡田さん)
OTC妊娠検査薬の導入が喜ばれたことをきっかけに、女性支援の分野に「まだまだできるのではないか」とロート製薬社内の注目が集まりました。ここから生理周期の乱れから更年期のケアまで含めた女性の一生の健康に対し、デイリーのスキンケアはもちろんのこと、漢方、サプリ、妊活応援などの開発が始まり、多様な成果に結実していきます。この流れが2025年の乳酸菌バリアケア発想の洗浄剤「ラビオーム」の誕生まで脈々と続いてきたのだそうです。

ロート製薬 スキンケア製品開発部 開発1G シンドゥ サンガベルさん
「ラビオーム」の企画立案からリリースまでを手掛けたのが、同社研究員のシンドゥ・サンガベルさん。インド・シンガポールの大学を経て12年前に来日、博士課程では物性・分子工学を専攻して、8年前にロート製薬に入社しました。
「博士課程でドラッグデリバリー分野を研究し、入社後はスキンケア開発に従事してきました。リップクリーム、リップカラー、日焼け止め、男性向けヘアケアなどです。そんな中、2017年ごろから北米・欧州の展示会、学会でフェムテックと接するようになりました。ロート製薬が1985年以来継続的に研究を続けている分野ですが、日本全体ではまだまだ注目されていないなと。もっともっと女性の健康に関わる研究を進めれば、より貢献できることがあるに違いない、私も深く関わりたいと考えて、マーケティング部門と話し合うようになりました」(シンドゥさん)
海外では女性特有の課題の捉え方が日本とは全く違うのだそう。日本文化を「恥の文化」と評することもあるくらいで、女性課題の多くに対して長い間「恥ずかしいことだから隠そう」という心理が働きがちでした。
しかし、海外ではどうかというと……。自分がこれまでとは違う心や体の状態にあることは周囲に理解してもらうべきこと。オープンにしないと誰にも理解されない。男性にもこうしたホルモン由来のトラブルはあることを理解してもらい、協力を求めないとならない。このように考えるそうです。オープンに話せないと女性も男性もどちらもしんどくなる、この課題感からシンドゥさんのプロジェクトがスタートしました。
「もっと言うと、国内では、医療用の医薬品においてさえ、1998年まで治験に於ける女性の扱いが述べられておらず*1、女性に副作用があるのかどうかがわからないという状態でした。日本のフェムテックはデリケートゾーンケアや美容など、アピアランスをよくするほうに意識が向いているのですが、海外ではこうした『性差』そのものを捉えようとするのは大きな違いでした。」(シンドゥさん)
ロート製薬は女性社員が全体の60%を占め、研究者も男女比が半々くらいという先進的な環境。また、2016年には自分のメイン業務以外に担務を持ち、2つの視点から物事を見て新しい価値創造につなげることを目的とした「ダブルジョブ」という制度も作られました。シンドゥさんの場合、スキンケアの研究開発を主務としながら新しいビジネスのシードを探す経営企画部門にも所属し、フェムテックが進む海外の展示会から情報を獲得する機会を作り出していたといいます。
「そうこうするうち日本も2020年フェムテック元年を迎え、2021年にはフェムテックという言葉そのものも大きな話題となりました。このタイミングで私たちもパイオニアとしての自分たちの立場を見つめ直し、『ロートのフェムケアとは何だろう』と考えるため、研究者やマーケ、プロモーションなど部門を横断して関係者が集まり、ビジョン作りに着手。2023年には『ラビオーム』のコンセプトが立ち上がりました」(シンドゥさん)
*1 1998年4月21日医薬審第380号通知 別添『臨床試験(治験)の一般指針について』
フェムケアという分野には他とちょっと違った「特殊さ」があると気づく…何が特殊だったのか?
「フェムケアって、ちょっと特殊な分野ですよね。普通は解決したいお悩みが中心にあるのですが、フェムケアの場合はムーブメントや思い、コンセプト、願いが中心にあって、その周囲に商品があるのではないかと思います。……そんな気づきをみんなで共有し合いながら、『ロートのフェムケアって、妊活や妊娠など”はじめの一歩”をお手伝いするものだね』という共通概念を見出していきました」(岡田さん)
こうしたビジョンづくりを経て、シンドゥさんは2022年に自身のダブルジョブを「スキンケア」と「フェムテック」の開発に定め、スキンケア領域からフェムテックに取り組もうと焦点を絞ります。
「スキンケア分野でどんなフェムテックができるかと考えてみると、まずはデリケート部位のケアじゃないかと。日本のフェムテックそのものも主にデリケート部位のケアからスタートしています。ですが、フェムソープは色々出ているものの、市場調査をすると『安心感がほしい』という声が集まります。ここで、私たちなら製薬会社ならではの確かな効果実感と安心感を提供できることに気づいたのです」(シンドゥさん)
デリケート部位そのものはこれから解明が進む分野ですが、ロート製薬にはこれまでの膨大な皮膚研究の蓄積があります。まずは皮膚研究をベースにして、デリケート部位に使うための洗浄剤を作ろうとゴールを定めました。
「デリケート部位は、尿や経血、おりものなどの汚れが付きやすく、ムレやニオイ、不快感、さらにはかゆみといった身体的な悩みが生じやすい部分です。しかし、ニオイや汚れが気になるからといって、強力な洗浄力を持つボディソープでゴシゴシ洗うことが逆効果であることをご存じでしょうか?デリケート部位の皮膚は非常に薄く、尿や経血、おりものなどに触れることで敏感に反応し、刺激を受けやすい部位です」(シンドゥさん)
顔や髪にそれぞれ適した洗浄料を使うように、デリケート部位にもその肌に合ったケアが必要です。毎日の優しいケアで、健やかで快適な毎日を送ってほしい――そんな思いから、ラビオームは生まれたそうです。
ここまでの記事では「開発に至るまで」をお聞かせいただきました。続く記事では「開発がスタートしてから」を伺います。
>>>簡単に終わるはずだった開発なのに…「気難しいアイツ」と取っ組み合いになった「ラビオーム」。「いや、よく考えたら処方も大変でした」
洗うたび肌環境を整える、乳酸菌配合デリケート部位用ソープ。ラビオーム バリアビオソープ 180ml 1,320円(10%税込)/ロート製薬
撮影/園田ゆきみ