こんにちは、再春館製薬所の田野岡亮太です。
この冬の冬至の期間は2024年12月21日から2025年1月4日でした。
1年に二十四めぐる「節気」のありさまと養生について、ここ熊本からメッセージをお送りします。
【田野岡メソッド/二十四節気のかんたん養生】
溜まる・つまるを解消してくれる働きの味は…
冬至は「冬の折り返し」でもあるのですが、ここから寒さが厳しくなる暦が続きます。自然をとりまく環境が寒い空気に包まれると、人間を含めた動植物は来春に向けてエネルギーを貯めはじめます。人間ではこの働きは“腎”の機能が担当しています。腎の機能は精(エネルギー)を「貯める」ことをしますが、意図せず「溜まる」が生じてしまうこともあり、身体の中での流通障害につながってしまいます。中医学では「味にも働き・効能がある」と捉えていて、溜まったものの流れを良くする働きが期待できる味を“鹹味(かんみ)”と呼んでいます。塩っぱい味のことです。
鹹味は、身体で生じた固まりを和らげる・消して散らすという働きと、腎の機能の経絡に働きかける、という特長があります。寒い冬に精を貯める腎の機能において流通障害が起こってしまったら…。そんな時には鹹味が最適ですね。
鹹味は塩っぱい味…。では、食塩を多めにすれば良いのか?ご存知のとおり、塩分の摂取量が多くなりすぎると高血圧などの別の病気の要因になってしまいます。鹹味は「天然の塩っぱい味の食材」「海のミネラル成分・塩分を含む味覚」と理解してもよいかもしれません。海のものでミネラル成分を含んでいるものというと、わかめ・昆布・ひじき…と海藻類が挙がります。他には、うに・牡蠣などの貝類も鹹味に分類されます。「海のミネラル成分」と言えば、季節は異なりますが“海水浴”も元々は海のミネラル成分を利用した治療目的で広まったそうです。「生物は海から生まれてきた」と言われますし、身体のバランスを整えるには鹹味(=海のミネラル成分・塩分を含む味覚)が自然の摂理に適っているのかもしれません。
塩分は摂取し過ぎない方が良いと言われますが、塩味を減らし過ぎると美味しく感じないにつながることもあると思います。そんな時は“酸味”を使ってみるのもおすすめです。ポテトサラダを作る時の塩分を半分に減らしてリンゴ酢を少し加えてみる…そんなことをしたりもします。後がけ調味料として使うしょう油をポン酢しょうゆに替えてみるという活用も美味しく塩分を減らせる方法のひとつだと思います。
中医学は「整体観念」という考え方を大切にしています。人は宇宙や自然から影響を受ける存在であり、すべてのものが互いに影響し合って生命を営んでいるという考え方です。この「すべてのものが互いに影響し合って営んでいる」の部分は、口から身体に摂り入れる食材についても適応できることと考えています。つまり、食材は自然に存在している状態で食材を構成する成分が互いに影響し合うから効能が期待でき、単一成分だけを精製して取り出したものは身体の中でバランスを崩す要因になりやすいと解釈することが出来ます。偏り過ぎると身体の不調のもとになってしまいます。せっかく摂取するのであれば、身体に効能がある形で摂りたいですね。
この考え方は、東洋医学の「一物全体(いちぶつぜんたい)」という言葉にもあらわれていると思われます。生命あるものを栄養としていただく時は“丸ごと”いただくという考え方です。自然界のものは「複数の成分が混在した状態」で存在しているので、人間の身体に摂り入れる時も「複数の成分が混在した状態」で摂り込むことが良いとされています。
この時季のおすすめ食材は“海産物”!
この時季に食べておきたい意外な食材は、鹹味の海産物“えび・クラゲ”です。ご紹介したい1つ目のレシピは、えびのニラソースかけです。えびは[温性]の性質で、腎の機能が蓄える「腎精(じんせい)」「腎陽(じんよう)」を補うので寒い季節には最適です。えびに合わせたニラも[温性]で、「腎精」「腎陽」を補います。同じ作用を重ねて摂ることができるので、寒い冬に鹹味を摂れるレシピとしておすすめです。
えび10尾は殻をむいて背ワタを取り、酒大さじ2.5、塩胡椒少々で下味をつけます。ニラ1束、ベビー帆立5~10個、水300mLをミキサー(フードプロセッサー)にかけてペースト状にします。鍋で薄口しょうゆ大さじ2、みりん大さじ3、酒大さじ3、塩小さじ半分と合せてひと煮立させ、水溶き片栗粉でとろみをつけてソースの出来上がり。玉ねぎは薄切り、えりんぎは縦に細く裂いて3cm程度の長さに切り、ごま油をひいた熱したフライパンで塩小さじ半分・薄口しょうゆ小さじ1で味付けしながら炒めます。続けて、同じフライパンでえびの色が変わるまで炒めます。ソースを盛り付けたお皿の上に、玉ねぎ・えりんぎ・えびを盛り付けて出来上がりです。見た目はバジルっぽいですが、味は意外にも和風です。
もう1つのレシピは、クラゲと菊花の和え物です。クラゲは馴染みがあまりない食材だと思いますが、写真の中で“黒い細切りの海苔のような部分”がクラゲです。スーパーでは海水と一緒にパッキングされた袋状で販売されていることもあります。長くひらひらした、帆立のひものような状態の食材です。袋から出したら、水で強く揉み洗いをして70~80のお湯にさらし、すぐに水にさらして30~40分塩抜きをします。その後、5cmほどの長さにざく切りします。
白いリボン状のものは白きくらげでキノコのひとつです。キノコ類なので湯通しを1分ほど行い、その後3cmの大きさにちぎります。ベビー帆立は粗みじん切り、細ねぎは小口切り、菊花は下茹でをして水気を切っておきます。クラゲ・白きくらげ・ベビー帆立・菊花の各食材をボウルに移し、鍋で火にかけて混ぜ合わせた酢50mL、きび砂糖大さじ1、塩小さじ半分をかけ回したら出来上がり。
クラゲは[鹹味]で、身体で生じた固まりを和らげる働きである[軟堅(なんけん)]の効能が期待できます。菊の花は“肝”の機能に働きかけるので、寒さが緩んだ春先の肝が働き過ぎてしまう季節の前準備としても有用な効能を含んでいます。
次回は“寒の入り”の小寒です。
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