吉本興業で芸人をしています。さんきゅう倉田です。この連載では月に4本寄稿しています。
欠かすことなく読んでくださっている方々、これからもよろしくお願いします。
大学で「あの記事読んだよ」とか「お母さんが読んでる。面白いって言ってたよ」と声をかけてもらうことがある。
そういう声があると、緊張感を持って執筆できる。
文法、レトリックなど、注意深く書き直し、事実と少しでも異なることを書かないようにしなければならない。
大学の外の人、ライターさんとか会社員とかに会うと、事実確認を蔑ろにしている人が多い。
「~~の人がたくさんいて」みたいな話を聞いて、「何人くらいいるんですか?」と聞くと、「ふたり」みたいなことがある。
学術的でない人は、すぐに一般化してしまう。
ぼくはそういう考えをよしとしないから、論拠を持って話をできる人とばかり付き合うようになる。
論理的に話ができない人との時間を減らす一方で、実は会話がほとんどできない相手との交流を強く求めている。
外国人だ。
とくに、英語かフランス語を話す人と会う機会を大切にしている。
先日、大学のトレーニングルームでベンチプレスをしていたら、「%恕△Λ!~ε*」とよくわからない声がした。
▶「英語が話せない」ぼくが留学生に話しかけられ…
トレーニングルームでの留学生とぼく
「%恕△Λ!~ε*」
周囲に人は少ない。おそらくぼくに言っている。
しかし、70kgのベンチプレスを挙げている最中なので、顔を向けることができない。耳を澄ませた。
「One more ! Strong !」
外国人留学生が、ぼくを鼓舞するように叫んでいた。
ぼくは限界まで挙げてから重りをバーに戻し、起き上がって留学生の方を見た。
親指を立てて、「Strong !」と言ってくれた。
しかし、ぼくはなんと言っていいか分からなかった。
彼が陽気なタイプの外国人だからといって、誰にでも声をかけるわけではないだろう。
日本人の学生と交流したい気持ちがあったのかもしれない。
しかし、すべての東大生が英語を話せるわけではないから長文の英語で話しかければ相手を困惑させると考えているのかもしれない。
ぼくが英語でコミュニケーションを取れば、相手は安心して会話を続けるだろう。でも、ぼくは喋れない。悔しい。
「Thank you」
会話は終わった。
日曜日にトレーニングルームに行くと、留学生が集まっていることがある。その中にはフランス人もいて、ぼくは会話の機会を常に伺っている。
▶フランス人留学生との忘れられない体験とは
フランス人留学生との忘れられない体験
あるとき、フランス人が腹筋用のベンチを使っていた。明らかに使い終わって、1mくらい離れたところで休憩しているタイミングで、後ろから声をかけた。
「Est-ce que tu l’utilise ?(これ使ってる?)」
フランス人は、振り返って笑顔で「Non」と言った。
そして、0.5秒ぐらいの間を開けて、少し驚いた表情でもう一度こちらを見た。
“二度見”だ。
初めてフランス人の二度見を見た。フランスにも二度見の概念があるのだろうか。
ぼくたちはフランス語で会話をした。
「フランス語が話せるのかい?」
「勉強してるよ」
「いつも日曜日に筋トレしてるの?」
「そうだね。でも夜に来たのは初めてだよ。留学生?」
「そうだよ」
「何を勉強してるの?」
「プログラミングだよ。君は?」
「ぼくは経済。名前はKenichiって言うんだ。君たちは」
「ぼくがマティンで、彼がカーオス」
「日本語は話せる?」
「全然話せない。日本語の授業はまだないんだ」
とても短い時間だったが、素晴らしい体験だった。フランス人の二度見をぼくは決して忘れないだろう。
ちょっとしたサプライズで他人に喜んでもらえると、効用が高まるのを感じる。
▶つづきの【後編】では、現役東大生が、勉強より熱中している「流行りのゲーム」とは?__▶▶▶▶▶