参議院本会議でテロ等準備罪(共謀罪)を含む組織的犯罪処罰法の改正案が6月15日、可決。成立しました。衆議院本会議で内閣不信任決議案を提出してまでの与野党の攻防は未明まで及びました。
時間を長引かせるしかなかったという野党戦術の失敗とも言えるような出来事でした。抵抗といっても、問責決議案や不信任決議案の連発でしかありませんでした。かつて社会党が行なっていた牛歩戦術(牛のようにノロノロと歩くことで時間を長引かせる作戦)もできませんでした。議長が投票までの時間を2分に制限したためです。
それしかできないようにした与党側の勝利でもあります。審議拒否という選択もあったように思います。第二党である民進党が本会議に出席しなければ、異例の事態です。自民党は圧倒的な議席数ですが、第二党が欠席のまま審議を進めるのは世論の反発を招いたり、政治不信を生み出します。一方、やりすぎも民進党も支持率を失う可能性があります。
民進党は審議拒否はしませんでした。共謀罪成立阻止のために審議拒否をした場合、世論はどう動いたのかは未知数です。かえって、自民党の支持率をあげる可能性もゼロではありません。民進党としてはこれ以上、支持率が下がれば、第二党で、野党第一党としての優位さを発揮できません。色々な思惑がある中で、時間引き伸ばし作戦しかできませんでした。
共謀罪の問題点はいろんなメディアが取り上げています。政府側は「一般人は対象ではない」という趣旨を答弁しているのですが、法文からは読み取れません。本当に政府答弁通りにするのなら、法文を修正しなければなりません。素直に読めば、「一般人は対象ではない」と読めません。そもそも、刑罰法規ですから、一般人も含めるのが当たり前ですが、あえて「一般人を含まない」と答えざるを得なかったのは、その時点では野党がうまく攻めていたからでしょう。
自民党は圧倒的な議席数があります。可決、成立させるのは簡単です。これまで小泉純一郎内閣でも提出してきた共謀罪ですが、三度廃案になりました(衆議院の解散によるものを含む)。「平成の治安維持法を成立させた総理にはなりたくない」と、当時、小泉首相が言っていたとも言われます。それほど、自民党内にも反対の声があったものです。自民党は常々、党内には多様な意見があると言ってきています。にもかかわらず、多様な議論を戦わせた結果の法案とは思えませんでした。
私は支持政党はこれまで持ったことはありません。自民党の政策は頷けるものがゼロではありませんでした。自民党は、1955年以降、保守層の支持を一点に集めてきました。その反面、保守本流だけでなく、保守だがリベラルな層、社民主義に近い保守層も取り込んでいました。
これほどまでに自民党内の多様な意見が見えにくくなったのやはり、小選挙区制を導入したからだと思われます。小選挙区制導入前は、各派閥による事実上の“政権交代"が行われ、バランスを取ってきたとも言えます。自民党なりの矜恃があったと思います。
かつて、小泉内閣は郵政民営化を問う衆議院を解散させました。「郵政民営化に反対する勢力は、抵抗勢力だ」として、党内の色分けしたのです。総裁の人事権が強化されたのです。もともと小泉氏は世論を反映しないとして小選挙区制に反対していました。しかし、単純な争点が出たときには利用できるとも思っていたのです。あの結果は、今日の安倍一強のもとをつくったのはないかと思えます。
[執筆者:渋井哲也]
《NewsCafeコラム》
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