10月23日、栃木県宇都宮市の城址公園付近などで爆発が相次ぎました。捜査の結果、自殺とわかりました。たまたま、ツイッターのタイムラインで、ユーザーが投稿していた動画がリツイートで流れてきたのを私は見つけていました。爆発の煙がどこから出ているのか、探しているような動画でした。ツイッターでは当初、「テロか?」といった疑いの声もありました。なぜなら、近くで祭りが行われており、騒ぎで中止となりました。
それにしても、テレビや新聞では、「どのように爆破したのか?」という観点の報道が目立ちます。例えば、NHKは、「その後の調べで、爆発があった周辺では、爆発物のものとみられる金属片が半径およそ40メートルにわたって周囲に飛び散っていたことがわかりました」と伝えています。
たしかに、「爆発はテロか?」「どのくらいの爆発の規模か?」は最大の関心事でしょう。近くにいた人たちが巻き込まれたために、「いったい、何が、どうなっているのか?」は重要な情報です。NHKは続けます。「警察は、元自衛官が威力の強い爆発物を使ったとみて、殺人未遂などの疑いで調べています」と。殺人を前提に捜査しているしているということは、近くにいた人も巻き込む意図があったのか、あるいは、明確な意図はないとしても、巻き込まれたら死ぬかもしれないという「未必の故意」があったのかどうか、ということになります。
警察目線は、事件性があるかどうかです。事件の場合は警察からの情報が多く出てきますが、自殺の場合は、出なくなります。自殺に関連した情報が少ないのは警察発表がメインのためです。警察をメインに取材し、それを元に報道していれば、事件性の部分が多くなります。もちろん、他の事件報道と同様に、どんな人物だったのかも報道してはいますが....。
栃木県の地元紙「下野新聞」では、自殺した男性が書いていたブログの内容を紹介していますが、少なくともこの原稿を書いている時点では、ブログ内容の紹介はあっても、検証記事はありません。検証は爆発のことしか出ていません。「爆発の数分前には近くのコインパーキングで、栗原容疑者の乗用車から出火。現場から乾電池やリード線が見つかったことが判明。県警は車両火災があった車にも類似した爆発物があった可能性もあるとみている」と書いています。
「どのように爆発したのか?」も大切ですが、「なぜ自殺したのか?」も同じくらいの関心事ではないでしょうか。男性はブログに家族の関係の悩みを書いています。そのブログによれば、娘は精神疾患を患い、家族関係は険悪になっていたようです。また、男性の妻は、娘の精神疾患を治そうとして、非科学的な手法にお金を費やしていることが記されています。さらに、DVを疑われて、離婚訴訟に負けています。
これらの内容がどこまで事実かはいまのところわかりません。男性は自身の思いや主張を世の中に届けようと、ブログを複数開設していました。しかし、なかなか思うように、ネットユーザーには届きませんでした。「ネット炎上を期待しているのですが、訪問者さえ少なく、色々と工夫しております。大げさにしなければ成りません」(原文ママ、16年10月9日)とあります。最悪の方法で、注目を浴びました。
男性が訴えたかったものは、精神疾患のある子どもと過ごすことの苦悩です。自身はそうした苦労を分かち合う会にも所属し、相談員もしていることがブログに書かれています。自分だけでなく、他の同じ思いを持っている人たちとも助け合いたいと願っていたのです。相模原市の「津久井やまゆり園」の殺人事件の背景にある、障害のある家族の苦悩にも通じるものがあります。
また、ブログには、確認しようもない話もあります。男性は「死ねば認めると調停時に言われたが死んでしまえば訴える事は出来ず、死人に口無だ。」(16年9月24日)と綴っています。誰に言われたのかはわかりませんが、その通り、「死人に口無し」になってしまっては、男性が本当に訴えたいことには伝わりにくくなります。ブログを読む限りでは、それなりに勉強をしていましたし、自殺以外の選択肢もあったのではないかと思えてなりません。
もちろん、ここまで自分自身を思い詰める前に、福祉サービスとどのようにつながっていたのか、ソーシャルワークがきちんとなされていたのかは、きちんと検証されなければなりません。司法が絡んでいるので、福祉側からは関わりにくい部分もあったのかもしれません。警察はそこまでしないでしょうから、報道、あるいは業界内でされることを願っています。
[執筆者:渋井哲也]
《NewsCafeコラム》
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