みえない被災者の格差 | NewsCafe

みえない被災者の格差

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「一年経っても何も変わらない。本当はそう言いたい。でも、そう言えないんです」

東日本大震災の被災地では、復旧・復興作業が進んでいます。視覚的には、一年前の震災発生のときと比べると、活気づいている場所も多くなってきています。
津波によって、家を流されたり、職場を失った人は、その再建に向けて歩み出しています。

しかし、家族を亡くした人たちは、まだその道を歩んでいけない心理を持ち続けています。冒頭の言葉は、遺族の言葉です。
この遺族は次のように言いました。

「『もう一年経ったのだから、もう吹っ切れよ』とも言われますよ。もちろん、いくら何をしても戻ってこないことはわかっています。家を失った人は、家を建てようとしているし、仕事を失った人も再び仕事を見つけようとしている。でもね、家族を取り戻すことはできないんです。だから、そこに被災者格差を感じます」

もちろん、家を失った人、職場を失った人も、それぞれの苦しみがあります。
何が「大切なもの」で、「かけがえのないもの」で、「交換ができないもの」なのかは人によって違うでしょう。しかし、「人」ほど、「交換ができないもの」はありません。
こうしてまだ苦しんでいる人がいます。ただ、その苦しみはなかなか口に出せるものではありません。それが、復興への道に乗れるか、乗れないのかの「格差」が生まれる元になっています。

「取材という形で、第3者になら、苦しみや辛さを話すことができます。でも、地元の人には言えない。失ったものが家や職場という人は、すでに再建に動き出している人も多くいます。失ったものは取り戻せる。しかし遺族は違う。だから、復興の動きに乗れないんです」

マスメディアに流れる情報は、一年を過ぎると、極端に減少してきています。もちろん、地元の新聞やテレビ、ラジオは、被災地の情報でいっぱいです。しかし、どの情報も「明るく、歩み出している人たち」の情報で溢れています。私もそうした人たちに出会い、話を聞いていると、この状況でよく前向きな気持ちを保てるものだと、感心するするほどの人たちが当初からいました。

「明るく、歩み出している人たち」の情報も重要です。被災地が元気になったり、支援をどこにすればよいかがわかるためです。しかし、その「影」で、まだ「歩み出せない人たち」のことが忘れられがちです。しかも、一見は強そうに見える男性だったりすると、周囲にはまったくそうは見えないのです。

3月27日から、私は、釜石市付近で取材しています。3月いっぱいで、福島県以北の東北道の無料処置が終わります。そのため、行けるときにできるだけ行っておこうと思い、3月のギリギリまで取材しようと思ったのです。

被災地には、今だからこそ、ようやく震災のことが話せるようになったという人もいます。こうした仕事は、タイムリーでもないし、センセーショナルでもない。そのため、メディアで伝えられるのはごくわずかです。

そんな中で、フリーランスの仕事を選び、かつ、メンタルヘルスの取材を継続的にしてきた私にできることといったら、こうした「埋もれてしまいがち」の、特に一年を過ぎてもまだこだわりを持ち続け、辛い気持ちを吐き出させずにいる人たちの話を聞くことくらいだろうと思います。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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