私はまだ東日本大震災の被災地を取材している。
多くの人が悲しみ、悩み、絶望を感じている。
そうした感情はそう簡単に癒されるものではない。
震災から一カ月以上が経ち、震災のことを忘れた日常を送っている人もいるだろう。
もちろん、震災を忘れることも大事なことだと思う。
当事者ではない人たちにとって、日常生活は、大事件があろうと大事故があろうと大震災があろうと、続いて行くもの。
震災の「情報」は、それはあくまでも、受け取るものでしかない。当事者ではない人たちにも大切な日常がある。
そして、被災者も日常生活を送っている。
震災で大切な人をなくし、大切な財産をなくし、思い出の風景をなくしていても、また日常が続いている。
被災者としての日常だけでなく、それぞれの人生を送っている。
入学式や始業式、入社式などの年度始めの行事が、何かの転機となる被災者もいるだろう。
茨城大学の入試が近づいていた3月11日、高校3年生の佐藤大貴さん(18)は下見のために茨城県水戸市に来ていた。
翌日が入試の本番だ。市内でバスに乗っていた時だった。
何日か経って、東京から仙台行きのバスが出ることになった。
仙台から石巻までのバスも運行できるようになった。
仙台行きのバスに乗るために、JR水戸駅から東京へ向かった。
4月15日、私は佐藤さんに会うために石巻市へ向かった。
佐藤さんの家の周辺は海岸から2キロ離れているため、全壊した家は多くはないが、ほとんどが床上浸水をしていた。
単なる集中豪雨とは違って、津波が海底のヘドロを運んで来ていた。
生臭いにおいが漂っていた。
もう使えなくなったモノをビニール袋に入れて整理をしていた。
入試前日の被災したため、大学入試どころではなかったという佐藤さんは、落ち着いてから、再び大学入試にチャレンジする。
「進路は被災前と変わらず、教育学部を目指しています。
理由は中学校の先生に憧れていたから。
地元の先生になりたい。
地元の子どもは全員が被災を経験している。
こういうことがあった時、どうしたらいいのかを教えていきたい」(続く)
《NewsCafeコラム》
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